冷凍の勝利
アルバイト、という事以外では誰かから給料を頂く生活というのはした事が無い。以前にも書いた事があるが、私はどんなアルバイトをやらせても人並みどころかエテ公以下の働きしか出来ないのでアルバイトの道で成功する事が出来ず、という事はその先にある正社員の道などは遥か彼方の天竺であったので、まあ見事に給料をもらいながら働いた経験に乏しい。
働き始めてからこっち、ずっとフリーランサー、つまりは自営業者の形態でもって働いているので、そのやり方しか知らない。会社から給料を頂くのではなく、顧客から直に金銭を頂くという形だ。
もう10年近くこの生活形態なのだが、フリーランス生活を続ける中でわかった事が幾つかあって、その中の一つは「我々は基本的に怒られない」という事。怒られる前に切られるのだ。理由は簡単。代わりなどいくらでもいるから。
私がヌルい仕事をしたとしても、私はクライアントから怒られる事はまずない。ただし二度とその仕事には呼ばれない。
逆の立場でもそうで、共演者の演奏が不満だった時に、私はその共演者に対して怒らない。ただし二度と一緒にやらない。長い目で期待している後輩などならば例外として「オマエ何やってんだよ」と言う事もあるかも知れないが、ほとんどの場合は怒らない。そもそもそういう人間をブッキングした私にも責任はあるから。
金銭的な評価を得たり、再度仕事の依頼が来たりという事が最大にして最高の賛辞である。これは音楽の世界に限らず全ての自営業者にある程度共通する事なのではないだろうか。
なのでこれはもう仕方の無いような思考習慣なのだろうが、私は常に「どうしたら怒られずに済むか」という事よりも遥かに優先して「どうしたら儲かるか」というような事を考える。多分自営業者としては特別な事では無い。
単純な経済効率を考える時もあるし、逆に損して得とれ的な思考で一旦非効率に走る時もある。その辺りはヤマカンだ。上手くいく時もあれば上手くいかない時もある。
自分でやる事はないが、飲食店の経営などをシミュレーション(妄想)するのも好きで、原価が幾ら、客単価が幾ら、家賃が幾らで人件費が幾らというのを考えるのも楽しい。
飲食店の経営妄想をしている時に一つ気付いてしまった事があって、それは「いかに廃棄を無くすか」という点である。
食べ物を扱っている以上、その食材が時間の経過と共に悪くなっていくのは避けがたい事実だ。
もちろん悪くなった食材を客に提供する事など出来ず、それは廃棄しなくてはならない。ここの部分をいかに少なく出来るかという所が利益にダイレクトに繋がってくる。
自宅で食事を自炊している時にもつくづくその事を思う。スーパーなどで買った食材を捨てる事なく余す所なく使い切れるのであればこの上なく経済的であるが、そうでなければ実は自炊ですら外食と同等に不経済な事すらある。
そんなみみっちい事ばかり日々考えている私であるから、刻みネギの冷凍作業ほど興奮する作業も無い。
今日は「刻みネギの冷凍作業は超楽しい」という事を書きたかっただけなのだが、随分と脱線しながら書いている。
そう、刻みネギの冷凍作業はものすごく楽しいのだ。
白いネギも青いネギもどちらも愛してやまない私である。ラーメンにはチャーシューもメンマもタマゴもいらない代わりにネギだけは入れてほしいと願うほどのネギ・ファナティックである私は、家にネギが無い事など考えられない。
しかしこのネギは、価格の変動が激しい。
我が家の近所の八百屋やスーパーでの価格変動を見ると、最も安い時には白ネギ三〜四本のひと束で98円、というのが底値だ。
それに対して高い時には下手をすると一本200円という事すらある。ネギの価格変動は本当に激しい。
そこで私がなるべく努めて実践しているのが刻みネギの冷凍だ。
八百屋やスーパーで底値に近いネギを発見した時には即購入。最低でも三束は購入したい。
そしてそれを家に帰るやいなや凄まじい勢いで全てみじん切りにしてジップロックの袋に入れて冷凍庫へポイだ。
これが刻みネギの冷凍作業である。
私の愛するネギであるが、これは白いワンピースを着た病弱な少女のように脆弱で、その辺に放置しておくとすぐにダメになる。カピカピになったりふにゃふにゃになったりして、食べられなくなってしまうのである。納豆なんかを見習ってほしい。あいつらは冷蔵庫に入れておけば賞味期限が半年前でも美味しく食べられるというのに。とにかくネギはすぐにダメになってしまうのである。
ダメになったネギを捨てる時の敗北感は異常なので、ネギは最後まで無駄無く使いたい。それがゆえの冷凍作業だ。
納豆を食べる時、蕎麦を食べる時、冷奴を食べる時。冷凍庫から持ってきたネギ袋からドサドサと大量にネギをかけて良いのである。最高の至福である。
そして、「棄てずに全て食べている」という満足感も高い。
刻みネギの冷凍作業は、あまねく全ての人間を幸福にする、という寸法だ。
アホな事ばかり書いていたらたまらなく眠くなってきたので、少し寝る。
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