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2026年5月 5日 (火)

この3日間のこと

大阪からバスに乗って東京に帰っている。暇なので長めの文章を書く。ここ最近のこと。

ここ半年ほどの間、心身ともに様々な不調に苛まれながらもそれを騙し騙しやってきた。

取り分けキツかったのは脳の働きの低下で、様々な認知能力に異常が起きていたのは自分でもわかっていた。

例えば本を読むにしても「文字」は読めるのだが「文章」が読めない。一文字一文字は読めるのだがそれが集合して意味を形成する部分が読み取れないということが起きていた。これは音楽の譜面においても同様で、今演奏している小節を読むことは出来るが、それがどこにどう繋がってという「文脈」として読み取ることが困難になっていた。

そのような異常に初めて気付いた時にはとても焦って狼狽えた。何が起きているんだと思った。だが次第にそれは自分の脳と身体に一時的に異常が起きているせいなのだと認めることによって「まあ仕方ねえや」と考え始めるようになった。

文章が読めなくても本を読むことはやめなかった。私は本を読むのが好きなのだ。今年に入ってからも村上春樹やカフカや森鴎外やジョイスを読んだ。今は芥川龍之介を読んでいる。理解力は落ちていても継続的に読み続けることが必要だと自分に言い聞かせて読んでいるし、何よりも本を読むのは楽しい。これからも本を読むことをやめることはないと思う。

同様に音楽を演奏することもやめない。もちろんこれは仕事だというところもあるので、音楽を演奏したりレッスンをしたりしなければ生活が成り立たないというのもあるのだが、音楽は丸々私の人生そのものなのでそれをやめることは現実的には考えづらい。

演奏においても脳の認知能力の低下により様々な弊害が出ていた。色々と挙げればキリがないのだが、一番は演奏に没入して興奮することが困難になっていたというのがキツかった。感情に分厚いフィルターが覆い被せられたような状態が続いていたので、演奏時に瞬時に「その世界」に飛び込めなくなっていた。

なんだかなあとモヤるところも多かったのだが、ここに関しては我ながら大したもので、ここまで培ってきた技術や経験でそれをカバーした。
こう来たらこういく、この状況ではこう対処する。20年の職業音楽家生活の中で少しずつ手にしてきた「技術」がギリギリのところで私を助けた。
100点の演奏を今は出来ないかもしれないが、なんとか60点なら出せる。今は100点を出せない自分を恥じるのではなく、60点を必死に叩き出す自分を褒めつつこの苦境を乗り切ろう。そんな風にして演奏生活を乗り切っていた。

状況に変化が訪れたのはここ一週間ほどのことだった。

毎日苦しめられてきためまいと頭痛が徐々になくなってきた。それまでは毎日めまいでひどくふらついてそして慢性的な頭痛に苛立っていたのだが、ある朝起きた時に「あれ?今日は世界がぐるぐるしないし頭もそんなに痛くない」ということに気付いた。それが約一週間続いた。ここまでの投薬が効果を見せてきたのかもしれない。ひょっとしたらおれは調子良いかもと思った。

あ、おれ、調子良いわ
というのが確信に変わったのが一昨日のことだ。

高槻ジャズストリートの初日、最初のステージは野見神社というところの能舞台だった。

早めに会場に到着して舞台を見たら、舞台の上にグランドピアノが置いてあった。「おー、グランドピアノあるじゃん、ありがてえ」と思った。ここではおそらく電子ピアノでの演奏になるんだろうなと思っていたのだけれど、予想外にグランドピアノだった。もちろん電子ピアノでも文句はないのだが、そりゃあグランドピアノの方がありがたいに決まっている。ラッキー。

で、本番の時間が近付いてきてどんどんお客さんが集まってくる。知った顔の方々が声をかけてくださったりして「楽しんでいってくださいねー」なんてやり取りをしたり。

その時点で、だいぶワクワクしていた。

あれ?と思った。本番前にワクワクしてやんの、おれ。普段だったら不安になったり緊張したりどんどんネガティブになっていくのに、珍しくワクワクしてやがる。変なこともあるもんだなー。そんな風に考えていた。

本番が始まった。すぐにわかった。あ、おれ今めっちゃ楽しい、って。

ベースの鶴賀がぶんぶんスイングする。ボーカルの高原かなが全てをむき出しにして高らかに歌う。サックスの登さんが、吼える。

それと一緒に演奏しながら、叫び出したいぐらいの興奮と幸福感に包まれていた。ていうか多分叫んでたと思う。よく覚えてないけど。

おれ、完全復活じゃねえかよ。そう思った。

ずっと脳を覆っていた分厚い膜が剥がれて、私の感情がどんどんむき出しになっていって、良くも悪くもだが野性に還っていく感覚があった。限界超えていきちぎったりますわ!というアホな感覚。ここ最近なかった感覚。もちろんそれは良い時も悪い時もあるのだけれど。とにかく久しぶりにそんな感覚を味わった。

一昨日の二本目の演奏でもその感覚は継続したし、そして昨日のサックスの登さんとのデュオの時にはどんどん演奏中に自分が研ぎ澄まされていくのがわかった。そして何より嬉しいのだけれど、登さんの演奏に心から興奮していた。私自身が。

自分が一番好きなものを食べても味がしなかったら悲しいと思うけれど、一番好きなものを食べて「やっぱり最高に美味ええええ!」と喜べるのは幸せなことに違いない。

なんかね、「お、こりゃまだ生きていけるぞ」っていうそんな感覚になった3日間でした。

見に来てくれたお客さん、ありがとうございます。

それから共演してくれた西池のりこさん、高原かなさん、鶴賀信高さん、登敬三さん、ありがとうございます。

さー、明日からまたレッスンと練習とバイトの日々だ。

最後に西成で食べた天ぷらそば270円の画像を貼っておきます。安すぎだろ。ほんでちゃんと美味いし。

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3日間お世話になった方々、本当にありがとうございました。


今日の演奏動画。

Hampton Hawesの作曲した『Takin' Care』をソロピアノで弾いてみました。リードシート(譜面)も添えてあります。

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