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2024年12月26日 (木)

コンピューターvs感性

青春18きっぷを使って今日は京都まで。

朝、1時間ちょっとの寝坊をカマしてしまって「やべーなー」と思っていたのだが、時刻表を調べてみたらどうにかなるっぽかったので安心して出発した。
順調に電車に乗っていたら、上野東京ラインが川崎手前で緊急停車。どうやら大井町付近で線路に人が立ち入ったかららしい。しょーがねーなー。

旅の序盤から出鼻をくじかれた格好にはなったが、ここから盛り返していけばいいのよ。まだ旅は始まったばかりだ。

電車の中で膨大な時間があるので文章を書く。本当は来年春にやる確定申告の資料作りでもしとくかなと思ったのだけれど、イマイチやる気にならないのでそれは後回しにする。

数日前にテレビでイチロー氏と松井秀喜氏が対談している番組を観た。かなり面白かった。イチロー氏が良い感じに「めんどくさいオッサン」になっていて、現役時代から彼のことは好きだったのだけれど今はひょっとしたらそれ以上に彼が好きかもしれないと思った。これからのイチロー氏からは目が離せない。

対談の中で印象的だったのが「今の野球がちょっとマズい方向に進んでいる」という話だった。
メジャーリーグの野球は現在セイバーメトリクスと呼ばれる指標を元に戦術のデータ化が進んでおり、様々な局面において「今の最適解は何か」ということをデータが導き出してくれる。この状況ではバントの期待値は何%、ヒッティングの期待値は何%という具合に。

日本の野球も数年遅れでアメリカの野球を真似ていくのがこれまでの流れであり、やはりこれから日本の野球も更にデータ化が進むだろうという話だった。

こういう流れを受けて、イチロー氏と松井氏は「面白くない」と不満を漏らしていた。「打順の意味も薄れちゃった」とか「感性が置いてけぼりになる」といったことに対して。

似たようなことが別競技でも起こっている。

現代サッカーにおいてファンタジスタは絶滅の危機に瀕しているらしい。スピードとフィジカルが最優先される現代サッカーでは、卓越した技術と創造的なアイデアを持つ選手の必要性は低下しているらしい。

将棋の世界ではAIが最善手を提示するのはもはやすっかりお馴染みになっている。一手ごとにその評価値が定められ、最善手を指し続けることによって勝利への確率が少しずつ上昇していく。

野球のデータ化、サッカーのファンタジスタ絶滅危機、将棋のAIによる最善手。これらは全て「勝つ」という目的に向かうための最短ルートなのである。

こういった効率化の中で競技はより複雑化していく側面もあれば、無機質で単純化していく側面もあるだろう。一概に良い悪いということは言えないが、イチロー氏が「感性が置いてけぼりになる」と警鐘を鳴らしたことに私は理解を示す。

もしも仮に「勝つこと」こそを「正しいこと」とするならば、無駄を省略してそこに向かうための最短ルートをたどることだけが最適解となる。お互いに極限まで研ぎ澄まされた最善手のぶつかり合いになるので、余計なことをしているような余裕はないのだ。
準備の段階から明確に目的化された努力を行い、勝負の場においてはそれを正確無比に実行する。そうすることに長けた者が勝利者となり、「正しい者」となる。

寄り道は悪であり、失敗は敗北だ。

極端に言えばそういうことになる。

さて、それは果たして我々が本当に望んだことだったのだろうか。

「勝つ」ということだけに関して言えば、これからもコンピューターの介入は避けられないだろう。コンピューターの能力には人間の能力を遥かに凌駕する部分がたくさんあって、それを活用することで人間の脳には思い浮かばなかった新しい最善手が提示される。それに従えば勝ちへの道は自ずと見えてくる。

そんなことを本当に心から望んでいたのだろうか。

もっと言うと、そこまでして「勝ちたい」と思っているのだろうか。

多分私は思っていない。そして「勝つ」ことだけに価値を見出していない。

勝利の価値が異常に高騰した状況下では、人々は過剰に敗北を恐れ、失敗を何としても回避しようとする。けれど、挑んだ結果の先にあった敗北は私はある意味では勝利よりも尊いと思っているし価値があるとも思っている。しかしデータやAIは「勝ち方」しか教えてくれない。そこに頼り過ぎていると、「ちゃんと負ける」ことが出来なくなるのだ。

音楽においても、正確無比な演奏ということに関してはコンピューターによる自動演奏が人間を凌駕する日はおそらくそんなに遠い日のことではない。作曲もAIによって新しい流れが生まれていることだろう。スポーツや勝負事においてのみならず、我々の暮らす芸事の世界にもコンピューターの介入の割合はすさまじい速度で増加している。

じゃあもうそこと張り合ってもしょうがねえよ、というのが私のスタンスだ。

少しでも正確な技術を獲得する為に日々の鍛錬はするけれど、それだけだとすぐにコンピューターに取って代わられる。きちんとそこに我々の感情を介入させていくのだ。それは必ずしも美しい感情ばかりである必要はなく、トホホな部分であっても良ければ何ならエゴイスティックな部分であっても良い。そういった「感情の介入」こそがコンピューターに太刀打ちする数少ない手段の一つなんじゃないだろうかと思っている。

勝負はなるべくならば勝った方が良いし、音楽もなるべくならばミスはない方が良い。それはそれで確かなのだが、決して「唯一の正解」ではないのだ。

敗北から学ぶ。ミスから立て直す。それはおそらくコンピューターよりも我々人間の方が得意としている。

イチロー氏が鳴らしていた「もっと感性を大事にしながら野球しようぜ」という警鐘は、あるいは今後のコンピューター社会全体における警鐘なのかもしれない。


さて、電車が最初の乗り換え駅の熱海についたのでブログはこの辺で。

今日のライブはこちら。

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12月26日(木)京都高野 む~ら
075-703-0120
https://jazzmurra.exblog.jp/
vocal:高原かな sax:登敬三 piano:福島剛
19:00~start music charge:3300円

観に来てくれよな!


今日の演奏動画。

Les BrownとBen Hornerの作曲した『Sentimental Journey』をソロピアノで弾いてみました。リードシート(譜面)も添えてあります。

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