先に言っておくが、いつもブログの最後に添えてある「今日の演奏動画」のコーナーは、今日は演奏ではない。中学生の時の私の柔道の試合の動画だ。
そんな動画がなぜ手元にあるかというのが今日のブログ。ちょっと長くなると思う。
小学生から大学三年生まで柔道をやって一旦引退して、そこから20年ぶりに再び柔道を始めた顛末は以前この記事に書いた。これも随分長い記事だけれど。
再び柔道を始めるきっかけとなった物語
この記事に書いたのだが、私が柔道を再開するにあたって背中を押してくれたのは、かつて私が柔道で一度も勝てずにそれでも彼に勝ちたいと憧れた高橋和樹選手、高橋くんだった。高橋くんは現在はボッチャという競技の選手として活躍している。3年前の東京パラリンピックでは見事銀メダルを獲得した。
その彼から数週間前のある日にメールが来て「福島くんの住所を教えてほしい。実家の掃除をしていたら面白いものが出てきたから送りたい」と言われた。
なんだろう、昔のトーナメント表でも出てきたのかなと思って彼に住所を伝えた。そうしたら「時間を見つけて送るので楽しみに待っていてね」と返ってきた。
何がくるんだろう、と思って少しワクワクしていたが、そこから毎日家のポストを覗いてもまだ何も届かなかった。
一昨日、柔道の試合が終わってから家に帰ってきたら、高橋くんからのレターパックが届いていた。「まさか今日来るかー」と思った。
一昨日の試合では若い強豪選手に手も足も出ずにコテンパンにやられて、本当に悔しかったし情けなかった。こんなに弱くてみっともなくても、また明日から練習を積み重ねて秋の大会には出るつもりでいるから、自分でも「なんで40代もなかばに入っていい歳こいてこんなにしんどくてツラいことやんなきゃいけねえんだよ」と愚痴りたくなりそうな瞬間が何度もある。それでも「好き好んで自分で選んだ道だから」と言い聞かせてまた立ち上がろうと思いながら帰路についたところでのその高橋くんからの便りだった。「まさか今日か」と思ったのも当然だ。
中に入っていたのはDVDだった。
家のDVDプレイヤーに入れてみたが再生できず、翌日に仕事場に行ってパソコンで観ようと思ってその日はそこまでにしておいた。
翌日である昨日、まあまあハードな仕事を全て終えてからパソコンでそのDVDを再生してみた。
それは中学生の頃の高橋くんの試合の映像だった。
東京都のどこかの武道場で行われたその試合は、高橋くんが中学二年生か三年生の時の試合なのでおそらく1994年か1995年のこと、今から約30年ほど昔の試合である。
ほとんどの試合を圧倒的な実力で秒殺を続けていく彼の試合を見ながら「そうなんだよなー、めちゃくちゃ強かったんだよなー、今見ても強いなこりゃ」と思った。
彼の圧倒的な試合が数試合続いたあとに、次の対戦相手は坊主頭の身長の小さな選手だった。
ゼッケンのところに「福島 小岩四中」とあった。びっくりして二度見した。中学生の時の私だった。
高橋くんが私に見せたかったのはこれだったのだ。
高橋くんと私の対戦は私の記憶している限りでは全敗だし、この試合も負けるのかなと思って見ていたら、やっぱり負けた。私も私でそこそこ良い動きはしているのだけれど、組み際の小内刈りで腹ばいに倒されたところからがっちりと横四方固めで抑え込まれての敗戦だった。
それまでに高橋くんに秒殺されていた他の選手たちに比べれば私もまあまあ頑張った方だが、やはり高橋くんの強さが際立っていた。
私との対戦が始まるところにカーソルを合わせてもう一度見直した。
私の動きが44歳である今現在とあまり変わっていないのが面白かった。「待て」がかかって開始線に戻る時の動きだとか、道着を直す所作だとか、礼の仕方とかもそうだし、闘志みなぎる感じも今とあまり変わらない。30年前の私は今の私と同じような柔道をしていた。当たり前といえば当たり前なのだけれど、それがなんだか可笑しかった。
何度も見直していたら少し涙が出てきた。
高橋くんはどういう気持ちでこれを見たんだろう。そしてどういう気持ちで私にこれを送ってくれたんだろう。
高橋くんも私も若い頃のある一時期を全て柔道に捧げた。楽しいこともあれば辛いこともたくさんあって、それでも私は柔道が大好きだった。おそらくそれは高橋くんもそうなのだと思う。
それがこの映像の試合の数年後、高橋くんは頸椎損傷という大怪我によって車いす生活を余儀なくされて突如として柔道を奪われた。自分が輝いていた時の映像を、彼はどういう気持ちで見るんだろう。
もちろん今も彼は輝いている。ボッチャにおいて今年のパリでのパラリンピックには惜しくも出場が叶わなかったそうだが私とのメールのやり取りの中で「まだ引退しない。やっぱり勝負の世界にいたい」と彼は言ってくれた。2028年のロサンゼルスパラリンピック出場を目指して、彼は今も日々努力を続けている。前へ前へと進んでいるからこそ、過去のことは過去のこととして見れるのだろうか。
そこのところはわからないが、とにかく高橋くんは30年前の私との試合を見せてくれた。とても嬉しかった。
柔道が大好きでたまらない二人の中学生の試合は非常に面白かった。巴投げを回転しながらかわした私の顔には「そんなもん食らうかよ!やってやるよ!」という闘志がみなぎっていたし、30秒間抑え込まれて負けた後に悔しがっている私は、本当に悔しかったのだと思う。
30年の時を経て、彼はボッチャという競技で、私は音楽と柔道で、互いに違うフィールドで日々努力をしている。
足立三中の高橋和樹に勝ちたいと思って稽古を積んでいた小岩四中の福島剛は、30年経った今でも高橋和樹に負けたくないと思っているのかもしれない。
そして言うまでもなく私は現在ボッチャの高橋和樹選手の一番のファンの一人である。
共に切磋琢磨してくれる「仲間」がいることに、心から感謝する。
今日の動画はその試合の動画。他の選手との対戦は載せていないけれど、私と高橋くんとの対戦のみを切り抜いて。
今も挑戦を続ける二人の30年前の姿を、良かったら見てやってください。
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