もう全然辛くないし全然粗くない
相変わらず広島カープがそこそこ強い。
8月4日現在、首位の阪神に1.5ゲーム差の二位につけている。ペナント開幕前にほとんどの野球評論家がカープを最下位に予想していたことを考えると大健闘と言っていい。
もちろん私はカープを首位に予想していたので、相当に見る目があったということなのだが。
勝ち負けはさておき、今年のカープはとても良い。もしもカープファンでなかったとしてもカープのことが好きになってしまいそうなぐらい、選手たちが溌溂と躍動している。
その要因の一部分を担っているのが我らが「新井さん」こと新井監督であるが、今年の新井さんの采配の中で良い意味でとても気になる点がいくつかあるので、今日はその内二つについて考えてみたい。
【新井さんの名采配その1:4番上本崇司】
これは賛否両論ある采配だと思うのだが、私はとても好きだ。実際にそれなりにうまく機能していると思うし、今の所反対意見の方が少ないと思う。
そもそもこれがなぜ注目された采配かというと、プロ野球の4番バッターというのは「ホームランを打ちそうなバッター」が置かれる打順なのである。
中日ドラゴンズの応援歌「燃えよドラゴンズ」の歌詞を思い出してほしい。「1番荒木が塁に出て、2番井端がヒットエンドラン、3番福留タイムリー、4番ゴメスがホームラン、いいぞ頑張れドラゴンズ、燃えよドラゴンズ」である。
この歌詞からもわかるように、打順にはそれぞれの役割がある。
一般的に言われるのは
1番バッター→とにかく出塁する
2番バッター→出塁した1番バッターを得点圏に進める
3番バッター→そのチャンスを拡大する
4番バッター→得点する
といったような役割である。まさに先ほどの「燃えよドラゴンズ」の歌詞の通りだ。
この役割分担から言えば、現在カープの4番に座る上本選手はそもそも1番か2番タイプのバッターなのだ。その上本選手が4番に座っていることは、これまでの野球の価値観から言えば少々トリッキーである。
新井監督にどのような狙いがあるのかは私にはわからないのだが、このことから私が感じたのは「新井さんはひょっとするとチーム内の序列を無くしたかったんではないだろうか」ということだ。
先ほどの「一般的な打順の役割」からいけば、どうしても1番バッターや2番バッターは3番or4番バッターに奉仕する役割となる。そこで序列が出来る。
もちろんプロの野球選手たちがそんな小さな価値観で野球をしてはいないのだろうが、新井さんは4番に上本選手を据えることで「誰かが誰かに奉仕するんじゃない。全員でチームに奉仕するんだ」というような態度を示しているように私には見えた。
実際に現在のカープは誰かが誰かに遠慮しているような雰囲気は非常に少なく、皆が対等に見えてとても良い雰囲気なのだ。このことにひょっとしたら「4番上本崇司」が関係しているのではないだろうか、というのが私の意見だ。
続いてもう一つ。
【新井さんの名采配その2:送りバントをあまりしない】
新井さんは送りバントの指示をほとんど出さない。たまに出すこともあるけれど、非常に珍しい。おそらく全12球団を通じて今年のカープの犠打(送りバント)数は最低なんじゃないだろうかと思う。
これはどうやらメジャーリーグなどで「送りバントは実は得点効率が悪い」というデータが出されてそういうことが日本のプロ野球でも徐々に浸透しつつあるというのもあるのかもしれないし、新井さんもそれを少し念頭に置いているのかもしれない。
けれどここでも私は新井さんのもう一つの意思を感じる。
新井さんのこの「送りバントをあまりしない」というのを見ながら、送りバントはある意味では自己否定を意味しているのでは、と私は思うようになった。つまり「我々はそう簡単にヒットを打てるわけではないのだから、アウトカウントを一つ犠牲にしてでも得点圏にランナーを進めるべきだ」という考えが送りバントの根底にあるということだ。
そしてそれを否定する新井さんは「君たちは素晴らしいから君たちは打てる。少なくともおれはそう信じている、だから送りバントはしない」という立場なのではないかなと私は感じている。
選手を信じて、そして選手に自信を植え付けるということが新井さんの采配の根底にあるのだとしたら、これはとんでもなく優秀な指導者になっていく可能性がある。
あの新井さんがである。
新井さんはもう「辛いさん」でもなければ「粗ゐさん」でもない。
もう全然辛くないし全然粗くない。
いずれにしてもここに挙げた二つの采配、「4番上本」と「送りバントをしない」に関しても現在それなりにカープが好調に勝ったり負けたりしているから結果論的に好意的に受け止められているのかもしれないが、新井さんの心中にそのような「選手の序列を無くしたい、そして選手に自信を植え付けさせたい」という意図があったのだとしたら、これは簡単に結果が出なかったとしても我々は見届けていかなくてはいけないのでは、と思ったのだ。
ということで後半戦も新井さん率いるカープから目が離せない。
この新井さんのチーム作りのやり方は、今後他チームの指針(あるいはお手本)になる可能性すらある、と私は感じている。
今日の演奏動画。
Pat Methenyの作曲した『Pat's Blues』をソロピアノで弾いてみました。リードシート(譜面)も添えてあります。
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