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2023年8月13日 (日)

夏目漱石『こころ』あらすじと感想

数日前にこのブログがちょこっとだけバズった。

バズったのはこの記事だ。

結局原因はわからずじまいだったのだけれど、このジェイムス・ジョイスの小説『ユリシーズ』のあらすじを私がめちゃくちゃザツにまとめた記事が謎にバズり、普段ならば100人来るか来ないかのこの弱小ブログになぜか1500人ぐらいが殺到していた。

やめてほしい。場末で好き勝手に書いているのだから。

幸いにしてアンチコメントが来ているわけではないので、とりあえず放置しておこうと思っている。現在はそのバズりは完全に落ち着いた。たくさん来てくださった一見さんももうどこかに行ってしまった。


で、柳の下の二匹目の泥鰌を捕まえようという訳ではないのだが、今日も文学書のあらすじと感想シリーズだ。先に断っておくが、バリバリのネタバレ祭りなので、嫌な人は読まないように。


今日は夏目漱石の『こころ』。

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実はつい先日読み終わった。

もちろん中学生や高校生の頃に読んだことはあったのだが、先日ふとした瞬間に「たまには名作でも読み返してみるかー」と思って読み返した。

ということでまずはあらすじから。ものすごくザツにいきます。うろ覚えで書くから前後関係怪しいかもしれないけど、そういう苦情は受け付けません。ちゃんと知りたかったらちゃんと自分で読みなさい。


夏目漱石『こころ』あらすじ

【上 先生と私】

・主人公の「私」が鎌倉に海水浴に行った時にある男と知り合う。

・「私」はその人のことを「先生」と呼んで懐く。

・その後も私は何かと理由をつけて先生の家に遊びに行ってダラダラ過ごす。

・先生は奥さん(静という名前)と二人暮らし。

・先生はたまに雑司ヶ谷に墓参りに行っている。「誰の墓参りに行っているんですか?」と聞いても教えてくれない。

・先生にはどうやら後ろ暗い過去があるっぽいのだけれど、それについてはあんまり教えてくれない。ただ「そういうのがある」と匂わすだけ匂わす。めんどくせーやつだな。

・私は新潟から東京に出てきている学生なのだが、新潟に住んでいる私の両親のうち、父親が重い病気になって死にそうというしらせがある。

・「つーわけで先生、ちょっくら新潟行ってきますわ」と言う。

・私、新潟へ行く。

・父親、今すぐ死んじゃうかと思いきやまあまあ元気。

・私、「大丈夫そうなんで一旦東京戻りますわー」と東京に戻る。

・東京に帰ってからいつものように先生のところでダラダラしてたら「お父さんが亡くなった時のために財産の話はしといた方がいいよ」と先生から言われる。

・「お金の話になると人は悪人になったりしちゃうからね」と先生。

・「なに?先生もそういうことあったの?」と聞くとまたもごもごする。めんどくせーやつだな。

・私、「じゃあそーゆー金の話だけちゃちゃっとまとめてきちゃいますわ」と再び新潟行きを決意。

・先生は別れ際に「私が死んだらどうする?」ばっかり聞く。めんどくせーやつだな。

・とりあえずメンヘラ気味の先生を放置して私は再び新潟へ。


【中 両親と私】

・新潟へ帰るも、父親はやっぱりそれなりに元気。大学卒業の目処が立っていることを褒められる。

・両親から「で、大学出たはいいけどその後どうするつもりなんだ?働くのかい?働かないのかい?どっちなんだい?」と聞かれる。

・「うーん、働きたくないでござるけど働かないとねえ」と私。

・「じゃあお前が東京でお世話になってるその先生って人に何か仕事の口を紹介してもらってはどうだい?」と母。「わかったー、手紙書いてみるー」と私。先生に手紙を書く。

・先生からは一向に返事がこない。私は「どっか旅行でも行ってんのかなー」ぐらいに考えている。

・私が「ま、ぼちぼち東京帰るかな」と考えて準備をしている頃に再び父の容体が悪化。東京行きの日程をちょっと先延ばしにする。

・と、そこで先生から私のもとへ電報が届く。「ちょっと会いたいのだが来れないか?」という内容。

・父親がちょっとヤバいので「すんません、今は無理っすわ」と電報を返す。

・そこから数日間、父親、なかなかヤバい状態なのになんとか持ちこたえている。私は父親の看病をする日々。ある日病院にいる私のもとにものすごく分厚い手紙が届く。先生からだった。

・先生は手紙の中で「私の暗い過去の話をします」と冒頭で宣言する。そして「あなたがこの手紙を読んでいる時には私はこの世にはいないでしょう」と書いてある。

・「え?ちょっと待って?先生もう死んでるの?何?自殺?」と混乱する私。若干テンパって「ごめん、東京行くわ!父ちゃんもうちょい頑張って生き延びといて!」って言って急いで東京へ向かう。

・新潟から東京へ向かう電車の中で先生からのそのめちゃくちゃ長い手紙を読み終える。


【下 先生と遺書】
※この章は先ほど私が読み終えた先生からのめちゃくちゃ長い手紙の中身がひたすら書いてある章。なのでこの章における「私」は主人公の「私」ではなくて先生の一人称としての「私」。注意して読むように。

・二十歳の時に私の両親が立て続けに亡くなりました。私はそれで叔父さんのところに世話になるようになりました。

・叔父さんは私に縁談を勧めてきました。従妹との縁談でした。私はイヤだったので「イヤなりー」と断りました。そしたらその辺から叔父さんの様子が変わってきて、叔父さん家での私の立場がめちゃんこアウェーになってきました。これはやべえと思いました。

・なおかつ私の両親の残した財産の相続のことで叔父さんともめて、結構ちょろまかされました。以前「人は金の話になると悪人になる」って言ってたのはこのことです。クソっ、あの守銭奴め!

・叔父さん家に居場所がなくなってきたんで「もういい!出ていく!」と思って出ていくことにしました。新しい家を探していたら大学の近くに下宿屋を見つけたのでそこに決めました。

・下宿屋にはそこの主人である奥さんとお嬢さんが二人暮らしていました。旦那さんは戦争で亡くなってたみたいです。

・私はその下宿屋から大学に通っていたのですが、段々そこのお嬢さんに恋心を抱くようになってきました。キャッ。でも別に直接言ったりはしてないからね。心の中でひそかに思ってただけだからね。

・奥さんとお嬢さんと私の三人で暮らしていたのですが、そこにもう一人の新メンバーが加わることになりました。私の幼馴染の男です。男の名前はKといいます。

・Kは寺の坊さんの息子でした。口癖は「精進」です。

・Kの実家は「医者になるなら学費出してやるから」と言ってKを大学に行かせてくれていました。Kは「なるなる!めっちゃ医者になる!おれはスーパードクターKになる!」とテキトーなことを言っていたのですが、実は医者になる気はゼロで、それがある時実家にバレます。

・「てめえ!スーパードクターKになるんじゃなかったのかよ!」と怒った実家はKへの仕送りをストップしてしまいます。ま、そりゃそうだわな。

・私が「Kさー、お金ないみたいだから、オレんとこで一緒に暮らす?下宿屋だし、シェアハウスみたいにしちゃえばいいじゃん」と言うと「OK牧場」と言って一緒に暮らすことになりました。

・Kもその下宿屋で暮らすことになって、私とKは仲良しなのでまあこれはこれで楽しいなーと思っていたのですが、途中からちょっとずつ問題が起き始めました。

・Kの部屋の前を通ると、たまにお嬢さんの声が聞こえることがあったのです!え?ちょっと待って!Kとお嬢さん、仲良くしてるの?おれ、お嬢さんのこと好きなのに!なんなの!?

・ちょっとこれは暗雲立ち込めてきたな、と思って私はKを誘って旅行に行くことにしました。千葉の房総半島の方です。そこで私はKに「おれさ、お嬢さんのこと好きなんだよね」と言おうと思っていたのですが、恥ずかしくて言えませんでした。だってマジ恥ずかしいじゃん。

・その旅行中にKがちょっと難しい仏教の話題を振ってきた時があって、めんどくさかったので華麗にスルーをキメているとKは私に「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と言いました。そんな言い方すんなよ。

・結局旅行中には「お嬢さんのこと大好き問題」に触れることなく、フツーにKと千葉で遊んで帰ってきました。

・帰って来てからもお嬢さんはよくKの部屋で話をしているみたいで、そのたびに私は「んもぅぅぅぅ!なんなのぉぉぉぉ!」となっていました。

・そんなある日、Kから「話がある」と言われました。

・なんとKは「ヤバい…おれ、お嬢さんのこと好きだわ…」と言うのです。

・ちょっと待て。それはおれが言おうとしてたやつで。なんでお前が言うのよ!

・でも私は「お…おう…そうなん…」と言うぐらいで。Kは「ヤバい…こんなことではおれの精進道が…おれはダメな人になっていってしまう…」というんですが、私は平静を装いながらも内心は激おこぷんぷん丸でした。

・それからしばらく平静を装って暮らしていたのですが、ある日Kが「なあ、こないだのことだけどさ…」と言いかけてきた時があったのです。

・そこでね、言ってやりましたよ。ええ、言ってやりましたよ。「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」ってね!お前、ストイックに生きていくんちゃうんかいと。Mr.ストイックになりたいんちゃうんかいと。それでいいんかいと。まあ、こうやって言ってKがお嬢さんのこと諦めてくれねーかなーと思ってたんですけどね。

・もう一回かぶせるように言ってやりましたわ、「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」ってね。そしたらKは「ばかだ…ぼくはばかだ…」って。あちゃー、これお嬢さんのこと諦めてくれねーわ。「そうだね、これではいけないね、お嬢さんのことはきっぱり忘れるわ!ぼくはMr.ストイック!」って言ってくれるの期待してたんだけどなー。

・いよいよこいつはのっぴきならねーなと思った私は規格外のパワープレーに出ることにしました。何かっていうと、奥さんに直談判ですよ。「お嬢さんを嫁にください」って言っちゃう。先にKを出し抜いちゃう。もうこれしかねーだろと思ったんです。

・家にKもお嬢さんもいない、私と奥さんだけになるタイミングを見計らって、計画発動です。奥さんに「お嬢さんを妻としてください」、言ってやりましたわ。

・そしたら奥さん「よござんす、差し上げます」。

・あぶねー!間一髪!ギリギリセーフ!薄氷踏んだー!とにかくこれでお嬢さんと結婚できるぜ!

・ただねー。問題はねー。Kにねー、どうやって言うかっていうことなんですよ。これ私、人として相当ダメな感じのことしてるじゃないですか。さすがにどうやってKに打ち明けようと悩んでいたんですよ。なかなか言えませんでしたよ。

・そんな感じで数日悩んでいたら奥さんが「結婚のことKに言ってなかったの?私が言ったらちょっとびっくりしてましたよ」と言う。マジかー、奥さんから言っちゃったかー。

・「え、Kはなんて言ってましたか?」と聞くと「そうですか、おめでとうございます」とだけ言ってたと。これヤベーわ、きっとKめちゃくちゃ傷ついてるわ。どーしよ。

・どっかでKにちゃんと謝らなきゃなと思ってたんですが、Kは自殺してしまいました。首の頸動脈をナイフで搔っ切って死んでしまいました。マジすか学園…

・遺書があって、そこには「自分はダメ人間なので死にます」とだけ書いてあって私やお嬢さんとのことには触れていなかったんですが、もうどっからどう考えったってKを自殺に追い込んだの私じゃないっすか。全方向的に私が悪いじゃないっすか。

・ド級のトラウマを抱えることになりながらも、結局私はお嬢さんと結婚することになりました。それは私が望んでいたことなんだけど、でもずっとKへの罪悪感があるっすよ。だから毎月雑司ヶ谷にあるKの墓へ行ってね。まあそれで罪が晴れるわけじゃないんですけども。

・お嬢さん(今の私の妻ね)にも結局ことの顛末は話せずじまい。話しちゃおうかな、言っちゃおうかなって時もなくはなかったんですが、結局言えなかったっす。こうやってあなたに手紙で打ち明けたのがこのことを誰かに話した初めての体験です。

・こんな感じでKへの罪悪感を抱えながらずっと生きてきたんですが、色々考えた結果、私も自殺することに決定しました!もうそれしかないっしょ!ここは最後ちょっと男見せますわ!

・ということでこの手紙があなたのもとに届いている時には私はこの世にいません!ごめんね!

・で、最後のお願いなんですが、このことは全て妻には知らせないでください。妻が己の過去に対して持つ記憶を純白にしておいてやりたいので。

・つーことで、ここに書いてあったことは全てあなたの心の中で留めておいてね!じゃあ、アディオス現世!

(了)


以上、『こころ』あらすじである。

個人的な印象を交えてかなり砕いて書いているのだが、まあ大体こんな感じである。

私はこの小説を読みながら何度も脳内にミルコ・クロコップの


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この映像が浮かんだ。

一番最後に「とりあえずおれは死ぬけど、妻は純白で幸せでいますように」とか、マジで「おまえは何を言っているんだ」だった。

他にもお嬢さんとの結婚を妄想している時に「もしお嬢さんと結婚できたとして、お嬢さんが自分以外の男を好きっつーのは何かイヤだなー、おれだけのことを好きでいてほしいなー、他の男のことを好きな女なんかと結婚したくねーや」というのを

【つまり私はきわめて高尚な愛の理論家だったのです。同時にもっとも迂遠な愛の実際家だったのです。】

という言葉で表した時に再びミルコが

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と言った。


全体を通じて「こいつらみんなめちゃくちゃ身勝手だな」という感想を持った。

おかしいな、高校生の頃に読んだ時にはもう少し先生の苦しみとかに共感できたはずなのに。

もちろん、共感できなかったからといって面白くなかったというわけでは決してない。小説としてはめちゃくちゃ面白かった。

立派な人間を描いた小説もそれはそれで良いが、やはり私はこのようにダメ人間を描いてくれる小説が好きなのだ。

夏目漱石の『こころ』と言えば、中高生の夏休みの課題図書に頻繁に挙げられる。

この夏、何人の若者たちがこの小説を読むのだろう。そしてこの小説に何を思うのだろう。そういうことを考えるとすごくワクワクする。

若い頃に読んだ名作を、中年になってからもう一度読み直すのはすごく良いなと思った。


今日の演奏動画。

Antonio Carlos Jobimの作曲した『Once Again ~Outra Vez~』をソロピアノで弾いてみました。リードシート(譜面)も添えてあります。

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