福岡という物語(ストーリー)
飛行機の中で「すんませんー、ちょっと機体にトラブルがある可能性があってチェックしなきゃなんないんで羽田空港戻りまーす」というアナウンスが入ったのは、その飛行機が羽田空港を飛び立ってから10〜20分後ぐらいのことだった。
「えー、マジかよー」という落胆の声がそこかしこで聞かれる中で私は密かに「ラッキー♪」と思っていた。
飛行機自体、乗っているだけでだいぶ興奮する乗り物だが、その中でも特に離陸の瞬間は一番興奮する。その瞬間を二度も味わえるというのは何ともお得!と思ってしまった。私は別に仕事で行くわけじゃないし。急いでないし別に良いのだ。
飛行機は再度羽田空港に戻り、乗客は一旦降ろされてから別の飛行機に乗せられた。
二度目の離陸の瞬間もやはり興奮したが、疲れていたので私はそこから約一時間寝てしまった。起きたら飛行機は福岡空港に着いていた。
その時点で私がなぜ今回福岡に来たのかが少しだけ判明した。
福岡には私の母の妹、つまり私の叔母一家が住んでいる。
叔母は長年声楽家をやっており、福岡の合唱団の指導などに携わってきた。今でもそれを続けている。
で、私の母とその兄(つまり私の伯父。伯父・母・叔母で三兄妹)は東京に住んでいるのだが、二人とも趣味でアマチュアのコーラスグループに所属している。
この母と伯父の二人が東京から福岡に帰省して(母も伯父も福岡の生まれ育ちだ)、そのついでに福岡に住む叔母(彼らの妹)に歌のレッスンをつけてもらう、というのが今回の主目的だったようだ。
なので福岡に到着するやいなや、軽く昼食を済ませてすぐに音楽スタジオに連れて行かれた。
スタジオは二部屋予約されており、その一室では母と伯父が叔母にレッスンをつけてもらい、そのもう一室には私が放り込まれて「まあ好き勝手に一人で練習でもしとけ」となったわけだ。まあそれはそれでありがたいのだけれど。旅先に出るとどうしても練習量が不足するので、ガツッと三時間弱集中して練習が出来るのはありがたい。「けど何でおれは福岡来て練習してるんだ」と思わなくはなかったけど、まあいいや。
練習してた部屋。
私は練習、母たち三兄妹はレッスンを終えてスタジオを後にして、夜は叔母の家で料理を作ってもらいつつ酒を飲んだ。福岡はやっぱり魚が美味い。それ以外にも叔母の絶品料理に舌鼓を連打しながら20時過ぎまで酒を飲んだ。
伯父が宿の手配をミスり、普段私が泊まっているようなドミトリー形式のハイパー安宿の宿泊となってしまったので、安宿マスターである甥の私が伯父をエスコートしてハイパー安宿のイロハを伝授しつつそこへ伯父を送り届けた。安宿初心者には少々難易度が高めのホテルだった。
伯父を送り届けた後、一人になった私はまだまだ酒を飲みたかった。よし、これは博多で一人飲みだなと思って街をふらふらしていたら良い感じのアイリッシュパブを見つけた。
ほう、久しぶりに樽生のギネスを飲むのも悪くないなと思って入店した。
樽生のギネスは非常に美味かったのだが、一杯(1パイント)1100円したので「これは一杯だけで失礼しよう」と思って一杯だけで店を出た。
ギネスは本当に美味しかった。タバコも吸えたし良い店だったのだが、いかんせん私が貧乏過ぎた。
店を出た時点で「やはり私の居場所は路上にしかないな」と思った。
久しぶりに訪れる博多を身体で感じる為には路上で飲むのが一番だ。そのような結論に至った。
コンビニで酒を買って、近くにある川辺に移動した。
夜景がとても綺麗だなと思いながら缶チューハイをちびちびといっていたが、後から聞いたらこの辺はラブホ街だった。何をやっとるんだ。
かなり良い感じに泥酔してホテルに帰ったのだが、ホテルの部屋が個室であることにテンションが上がり過ぎてしまった。いつもは声を出しちゃいけないドミトリーなのに。
ついつい上がり過ぎてしまったテンションでTwitterの「スペース(勝手に喋る一人ラジオみたいなやつ)」をやってしまったが、何を喋ったかビタイチ覚えていない。何をやっとるんだ。
寝落ちしてからライトな二日酔いで迎えた今朝。
亡くなった祖父と祖母(私の母たちの両親)の墓が香椎という所にあるのでそこへ墓参りに行こうということになっていた。
今回の私の唯一と言っていい「やるべきこと」がこの墓参りだ。母と伯父と三人で電車とタクシーを乗り継いで行ってきた。もちろんタクシー代は二人に奢ってもらった。
その後長浜にある鮮魚市場の一角にある飲食店街に連れて行ってもらい昼食を。
海鮮丼と煮魚の定食が1000円だった。非常に美味かった。これは自分で金を出した。
その後母たち三兄妹は知り合いのコンサートを見に行くということで、私はそこで放置されて自由行動となった。その後16:30ぐらいに福岡空港で再び落ち合おうということだった。
海が近かったので海を見に行こうと思った。
海は良い。どこの街に来ても海は間違いなく良い。私は海がとても好きなのだ。
海でしばらくぼーっとしながら「さてどうすっかなー」と思案した。
思案してすぐに「よし、歩こう」と思った。
昨夜「その街を身体で感じたいならば店で飲まずに路上で飲むべきだ」と考えたのとロジックとしては同じだ。その街を肌で身体で感じたいのであれば歩くのが良いのだ。
海沿いを少し散策した後に、目的地を福岡空港に設定した。16:30までにそこに着けば良いのだ。私は福岡空港に向かって歩き始めた。Google Mapで大体の位置関係を調べたが、およそ15kmぐらい。時速5kmで歩けば約三時間。いけるな、と思った。
途中で川を見た時に、大阪の川の風景を少し思い出した。
空港も近くになってきた時に東福岡高校があった。
叔母の二人の息子(つまり私の従兄弟)の出身高校だ。
従兄弟たちにもしばらく会っていない。彼らにまた会いたいなあと思った。
風景はだんだん空港近辺の風景に変わってきた。
意外と楽勝だった。二時間強、三時間弱ぐらいで福岡空港についた。遅れちゃいかんなと思っててくてく歩いてたから、歩く速度も結構速かったのかもしれない。
ということで空港に到着して勝利のビールを飲みながらこのブログを書いていた。
このあとは飛行機に乗って東京に戻る。
東京が故郷で、そして京都は第二の故郷で。
けれどこの福岡の地も私にとっては確かに故郷の一つなのだ。
母たちの一家は福岡にルーツを持ち、そしてその血が私にも流れている。
私の身体の中に「福岡という物語(ストーリー)」が存在することが何だか不思議だなと思うと同時に、ちょっぴり嬉しく感じる。
早ければまた来年、福岡に来るかも知れない。
また来たいな。
今日の演奏動画。
Denzil Bestの作曲した『Denzil's Best』をソロピアノで弾いてみました。リードシート(譜面)も添えてあります。
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