WBCの感想~敗者の物語~
仕事の為に家を出たのが10:30で、その時にはまだWBCの決勝戦がやっている最中だったので移動しながらラジオ(radiko)で聞いた。
結果はご存知の方も多いと思うがドラマチックな展開で日本代表がアメリカ代表を3-2で降して優勝を決めた。
優勝を決めた瞬間は私はコンビニでコーヒーを買っていたのだが、カップを持つ手が少し震えた。それぐらい興奮したのは事実だ。
非常に個人的な感想になるのだが、今回のこのWBCを振り返ってみたい。私の中で興味深い気付きがあったので。
実を言うと、予選の時点ではあまりエキサイトして見ていなかった。日本代表があまりに強すぎたからだ。ギリギリのところを何とか勝ちきるというような展開は皆無で、全ての試合が内容結果共に圧勝だった。うーん、日本代表が勝ってくれるのは確かに嬉しいんだけどこういう展開はイマイチなあと思っていた。
そんな中で一人の選手のことがずっと気になっていた。
ヤクルトスワローズ所属の村上宗隆選手だ。
言わずと知れた令和の三冠王、若くして日本球界を代表する大打者である。
この村上選手が、圧勝を重ねる日本代表の中で唯一成績が振るわなかった。そのことでネット上には「いつまで村上選手を使い続けるんだ」という声が相次いだが、私はそれに対して「何言ってんだ」という反感しか抱いていなかった。
広島カープファンである私からすれば村上選手は「恐怖」でしかない。同じセ・リーグで戦う広島カープとヤクルトスワローズ、対戦時にヤクルトスワローズのチャンスで村上選手に打席が回ってきた時には「終わったな」と何回も思わされたし、実際に終わらせられたことが何度もある。
この童顔のモンスターに何回も辛酸を舐めさせられてきたんだ、村上選手は必ず打つ。私はそう思っていた。
ところがいつまで経っても村上選手のバットからは快音が聞かれなかった。
あれ?おかしいな?と思う私の気持ちと並行して村上選手に対する世間の風当たりは一層強くなってきた。
その辺からである。私がハッキリと村上選手を応援し始めたのは。
村上選手を叩いている連中に向かって「三冠王獲ってから言え」と言いたかった。村上選手(だけではなく全ての選手がそうだが)がこれまでどれほどの練習を積み重ねてきたか。何の努力もせずに批判だけしやがってと苛立つと同時に、こう思うようになってきた。
どんなに苦労しても報われない瞬間がある。勝負事でも、芸事でも。うまくいかなくて自分に絶望しそうな時、逃げ出したい時。頑張って前を向いている人はどこまでも気高く美しいんだ、と。
そしてそこで気付いてしまった。
私は「失敗者の物語」にものすごく興味を惹かれるんだということに。
そう考えると圧勝を重ねた予選リーグにイマイチそそられなかったのにも合点がいく。
私は失敗して躓いた人間にこそ興味がある。その人間がどのように這い上がってくるのか。どのように前を向くのか。どうやら私が欲していたのはそういう「失敗者の物語」なのだ。
これはおそらく私自身がこれまでに数えきれないぐらいの失敗を重ねていることとも無関係ではないだろう。音楽家として実に低能である私はこれまでに何度も失敗をしている。あちらこちらで何度もクビを切られ、不必要とされている。
そんな私ごときと村上選手を比べるのは荒唐無稽かつ厚顔無恥だが、私がそれでも未だに音楽にしがみついて必死に前を向こうとしているように、どこかで誰かが苦境の中で力を振り絞って立ち上がる姿に一種の共感めいた感動を覚えるのかも知れない。
なんだ一種の自己愛か、とも思うが仕方ない。そう感じるのだから。
決勝ラウンドの準決勝のメキシコ戦、試合を決める逆転サヨナラタイムリーを放ったのは村上選手だった。今日の決勝戦でも同点となるホームランを放った。
失敗から逃げ出さずに前を向いた真面目な青年の努力の結晶だな、と勇気をもらった。
WBC、日本代表の優勝。
それ自体は確かにとても嬉しいことなのだが、勝者の数だけ敗者がいる。そしてそこには敗者の物語がある。
前を向くんだ。
力強く前を向くんだ。
何度失敗したとしても。
今日の演奏動画。
Charlie Hadenの作曲した『Our Spanish Love Song』をソロピアノで弾いてみました。
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