ゲロのアーチとチャンス大城と
私が生まれ育って今も住んでいる東京の小岩という街は、最近ではマツコ・デラックスの番組などで”イカれた街”として取り上げられることも度々あるが、私にとってはそれなりに住みやすい街であるし愛着もある。
だが、時折その”イカれっぷり”をまざまざと見せつけてくる時があって、昨日がまさにそんな日だった。小岩が私に牙を剥いてきた。
昨日は池袋でレッスンがあって、それが終わってから池袋の立ち飲み屋で一人で軽く飲んでから小岩に帰ってきた。
小岩駅で降りて家へ向かって歩いていると、細い路地の両サイドに若者がうずくまっていた。
若者は二人とも酔っ払いであり、路地の排水口の所にゲロを吐こうとしていた。
背中合わせの若者二人が背中越しに会話をしているのが聞こえた。
「いける!?喉に手を突っ込める!?」
「いける!やってみる!」
歩いて彼らに近づく私が、背中合わせに路地の両サイドに並んでいる二人を線で結んだその中心に来た時、二人は同時に喉に手を突っ込みながら盛大にゲロった。
私が二人のゲロのアーチをくぐっている格好になった。
アーチをくぐるなんて何か祝福されているのかなと思ったがもちろん祝福はされていない。
勘弁してくれよ、と思った。
ゲロのアーチをくぐって少しだけ歩みを進めていると、路上で女性らしき人が泥酔して倒れており、それを彼氏とおぼしき男が必死に起こそうとしていた。
わー大変だなと思って私は彼氏らしき男に声をかけた。「大丈夫ですか?救急車かタクシーか呼んできましょうか?」と。
「いや、大丈夫っす!すぐそこなんで!」と答えた男は、地下芸人のチャンス大城に激似だった。
それにしても女性の泥酔ぶりがハンパではなく、チャンス大城は何度も「おい!起きろよ!オラ!」と女性を揺すっていた。
私が「これヤバいっすよ、この感じは急性アルコール中毒とかもありえるし、救急車呼んだ方が良くないっすか?」と聞くと、チャンス大城は
「あざます!でもマジで大丈夫っすから!オラ!起きろコラ!」と言って女性の頭を引っぱたき始めた。
ちょちょちょちょ、待ちなさい!叩くのはやめなさい!と私がチャンス大城を制すると、チャンス大城は女性の耳のすぐ近くで「起きろっつってんだろ!」と大声を上げ始めた。
こりゃあまずいなあと思っていたら女が目を覚ました。
私もチャンスも「良かった」と胸を撫でおろそうとしたら、女が起きるやいなや猛牛のように暴れ狂った。
暴れ狂ったのだが、泥酔しているので攻撃の方向が支離滅裂だった。架空の敵と戦っていらっしゃった。
チャンスが「起きたんで!大丈夫なんで!」と私に帰るように促したので私もじゃあもう良いかと思って歩みを進めた。
背後ではまだアーチ型の若者二人がゲロを吐いていた。
小岩は良いところなのですが、たまにこんなところです。
この街に虹はかかりません。
今日の演奏動画。
John Coltraneの作曲した『Trane's Blues』をソロピアノで弾いてみました。
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