タバスコに罪はない
何年か前のこと。
とある個人経営の洋風居酒屋に行った時のことである。
ピザを頼んでワインを、なんてことを楽しんでいた。私だってたまにはそういうハイカラなことをすることだってあるのだ。主にサイゼリヤとかで。あるいはサイゼリヤとかで。その日は個人経営の店だったけど。
サイゼリヤほど安くは無いけれどそれなりに安くて、しかもピザが抜群に美味しかったのでとても満足しながらワインを飲んでいた。
私はピザにタバスコをかけたくなった。ピザが一味物足りないという訳ではなく、タバスコをかけてピリリと辛くすることでピザを更に「ワインがススムくん」に変貌させようという目論見だった。
すみませんタバスコ頂けますか、と店主に声をかけた。
すると店主は
「ウチはタバスコとか置いてないんですよね」と一言。
あ、そうですかすみません、と言うと
「タバスコかけちゃうと全部タバスコの味になっちゃうじゃないですか」と。
むー。
確かにそうかも知れない。
タバスコは酸味もあったりでだいぶクセが強いので店主の言うように全部タバスコの味になっちゃうかもしれない。
でもそれ言ったら魚の刺身だって醤油つけたら全部醤油の味になっちゃうみたいなことにならないか?などと思いつつも、まあ仕方ないこのまま食べるかと思ったら店主が「ウチはこれなんで」と言ってタバスコではない"透明なタバスコみたいなやつ"を出してくれた。沖縄のコーレーグース(島唐辛子を泡盛に漬けたやつ)の洋風な感じのやつだった。
はあ、ありがとうございます、と言ってそれを使わせてもらった。
食べている時に「こっちの方が良いでしょ?」と聞かれて、まあ確かにタバスコほどクセが強くないのはわかるけれどおれはタバスコがほしかったんだよなあと思いながら「はい、美味しいです」と答えて、その店には多分もう行かないなと心の中で思った。
店主の勧めた洋風コーレーグースが悪いという訳ではない。その前の「タバスコかけるやつはバカ舌」みたいなくだりが私には必要なかったのだ。だって私はタバスコが好きなんだから。
自分が良いと思うものを他人に勧めるのは全くもって悪くないと思う。特に料理屋なんていうのは「これが美味しいと思うんです!どうですか!?」というスタンスでやっていて当然なので店主がその洋風コーレーグースを勧めるのは全くもって悪いことではない。
ただしその際にタバスコをdisる必要はなかったのだ。
自分が良いと思うものの優越性を示す為にそれ以外のものをdisるという構図に私は多分「何だかなあ」という気分になった。
おそらくこれが
「タバスコ頂けますか?」↓「お客さん!タバスコも良いんですが今日はこれを試してみませんか!?」
と言って件の洋風コーレーグースを差し出されたら、私は「何これ!さっぱり!ピザの味を邪魔しない!なおかつワインがススムくん!」と大満足してそれを使っていただろう。
こういうのって、ちょっとしたことなんだけどね。
その洋風居酒屋は数ヶ月後に店の前を通ったら無くなっていた。潰れたのか移転したのかはわからない。
タバスコをdisらなければあるいは、とも思ったが、それは店主の自由なのだ。
自分の好きなものを誰かに勧める時に、それ以外のものをdisらない。
この時に得た教訓である。
今日の演奏動画。
Buddy Colletteの作曲した『April Skies』をソロピアノで弾いてみました。
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