ブルースに嘘は通らんよ、ホンマ~市川修1994年インタビューより~
昨夜、いまだに付き合いのある兄弟子(あにでし)から一枚の写真が送られてきた。
雑誌「Jazz Life」の1994年8月号、私たちの師である市川修さんのインタビュー記事だった。
そこに書かれている言葉の一つ一つは、見事に私の心に刺さった。
今のような本当にしんどい状況の中で、どんな言葉よりも私を勇気づけた。
昔は彼の言っていることがちんぷんかんぷんだったし、何だったら曲解していたりもしたのだけれど、彼の言っていたことが今更に少しずつわかり始めてきた。
彼が亡くなってもう14年以上が過ぎているけれど、彼と共に過ごした数年間はいまだに私の宝物である。
テキスト起こしをして紹介したい。
しかし、生意気なこと言ってるよなあ(笑)
『市川修』
ブルースに嘘は通らんよ、ホンマ
~京都のミュージシャンは口を揃えて言う。「市川さんは、若手を育てるという意味ではホンマ凄い人や」。捉えどころのない妙なおっちゃんだが、京都にはこの人がどうしても必要なのだ。~
【1】
ビールでも飲んで話した方がええかもしれへんけどな。いやー、大変ですよ、みんな。状況は昔からキビシイよ。
全体にものすごくうまくなったと思いますよ、日本人は。ただね、僕らが何にもないところに火をつけて、その火を絶やさんようになんとかやってきたんやけど、なんかね、時々ヤバイぞーと思うこともある。だいたいね、文化として日本にないんだから、ジャズは。だけど僕はそれを知るために教会にもずっと行ってたし、ブルースの黒人のおじさん達と演った。だから「一体何なんか?」という一番大切なところを踏み違えてる人を見ると、困るなこれは、と思うわけよ。
【2】
僕はレコードはムチャクチャ聴きましたね。学校に行かないで、だいたい1日に8時間ぐらいジャズ喫茶にいるとするでしょ。そしたら、まぁ20~30枚は聴けるよね。1年に200日ぐらい行ったとすると……、何枚になるかな……。
1960年代の終わり頃、ヒッピーがいっぱいいてね、僕は学生で、髪の毛伸ばしてヒッピーのロックをやってた。だけど、ジャズもやってたんよ。キャバレーで演奏するバイトなんかやってたけど、これじゃいかんなと、大阪の学校に習いに行った。でもそれもいかんなと、東京へ行ってみた。日野皓正(tp)さんの運転手をしながら、新宿ピットイン、歌舞伎町のタロー、阿佐ヶ谷のアズ・スーン・アズなんかで演奏してた。でも身体を壊して、もう辞めるつもりで京都に帰ってきた。で、サラリーマンしてて、ふとしたことからまたジャズを始めた。
その頃のお客さんは黒人崇拝なわけ。ブルースにしてもじゃずにしても、日本人にはできない。みんな言い切っとった。オマエみたいな日本人の演奏に、なんで金を払わないかんのか。いつも大変やった。僕も悩んだよ。やっぱり日本人には無理なんかなぁ、と。特にブルースはね。アメリカに行った時も、年寄りのオジサン達に「No」ってたくさん言われたし。ジャズっていうのは勉強しなきゃいけないし、複雑な構成を持っているし、楽譜に頼ってる。でも譜面を読めない、音しか分からないブルースマンの演奏は、直感が大事や。譜面読めない人、多いよ。だけど、凄い演奏をする。お互いの音をちゃんと聴いてるから。それで、僕も段々分かっていった。
……何を話してるか分からんようになってきたね。
【3】
これからジャズをやろう、という若い人が、例えば僕のところに習いに来るでしょ?“市川ジャズ教習所“やからね、ホンマ。だけど厳しいわけよ、ムチャクチャ。それを1年、2年とやる。するとだいたい基本はわかる。でももう僕の顔見るのもイヤになると思うわ。それでいいねん。で、みんなやりたいことをやっていく。10年、15年経って僕と会って一緒に演る。すると、ちゃんとできるんよ。誰かが基本をちゃんと教えんとね。
よく「あいつはタイムが速い」とか「タイムが短い」とか言うよね。普通は「おい、お前ちょっと速いよ」とか言うけど、僕はちょっと違う考え方してる。その人のリズムが出てたら、やりようはあると思うんよ。全部のリズムが突っ込んだり、ムチャクチャで分からなくなるのはダメよ。例えば、速く速くいく人がいたとする。僕は「わかった。そんなに走るならもっと走れ。とことん走れ!」と言う。それで絶対楽しめるから。
【4】
日本人は何でも器用にやれるもんやから、あるところまではやるんやけど、ほとんどの人は、ほんとにスウィングするところまでいかないで演奏してる気がする。日本人で、僕の考えるところの4ビートがちゃんとできてる人はほとんどいないんやないかな。4ビートは難しいよ。5年や10年じゃできない。僕?僕は楽器を始めるのは遅かったけど、今ようやく向こう(アメリカ)の人と問題なく渡り合えるようになったと思う。
若い奴は”セサモ”の木曜のジャム・セッションに来なさい。ほんとにジャズが好きな人は、僕の所に来なさい。
(「Jazz Life」1994年8月号より)
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