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2019年6月 5日 (水)

雑司ケ谷「ターキー」

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今日の午前中のピアノのレッスンの時に、生徒との雑談の中でのことである。

たまたま私は最近アルゼンチンタンゴに興味が出てきて、アルゼンチンタンゴの巨匠、バンドネオン奏者であり作曲家でもあるアストル・ピアソラの音楽を自分の趣味で勉強してるんだ、という話を生徒にした。

ラテン音楽というと、ブラジルのサンバなどに代表されるように「明るい踊れる音楽」のようなイメージが強いのだが、ピアソラのタンゴはどちらかと言えば静謐な世界で妙に私の性格に合う、勉強していて楽しい、と私は言った。どちらかと言えば「うえーい!ノリノリー!」という感じの性格ではないその生徒も「ええ、そういうのって何となくわかります」と多少なりとも共感を示してくれた。

幼いころから「みんなと一緒に何かを楽しむこと」の苦手な子供だった。斜に構えていた部分も多分にあった(今もある)ことは自覚している。みんなが一つになって同じ楽しさを共有して、という場にいるだけで逃げ出したくなった。世間で言うところの「パリピ(パーティーピープル)」とは真逆の人生を歩んできたし、今もおそらく歩み続けている。そういう人たちが存在していることは構わないが、私はそういうのは苦手なのだ。アゲアゲなバイブスが、私は今でも苦手である。

職業に、そして人生を捧げる対象に「ジャズ」という音楽を選択したのは、そういう所と無関係だったとは思わない。極めて個人的な音楽であるジャズは、私のような偏狭な人間の救いになりえているのだ。それは今も。



話は昨日にさかのぼる。

2001年というと今からもう18年前になるが、パキスタンを旅行中に知り合った石田ゆうすけ氏という友人がいる。それ以来何だかんだと付き合いが続いている。彼の現在の職業は文筆家である。様々な媒体に文章を書いたり、自身の本を出版してそれが結構売れたりもしている。

よくメールのやり取りをする私たちであるが、物書きとピアノ弾きのメールのやり取りはどれだけ高尚な話をしているかと言えば、98%が野球と食べ物の話である。完全に俗なおっさん同士の会話である。当たり前だろ、おっさんなんだから。

彼が先日自身のブログにこんな話を書いていたので、「わかるー!めっちゃわかるー!意識高い系ラーメン屋苦手ー!」と、知性に溢れまくったメールをした。ちなみにその前後では「阪神のジョンソン~ドリスっていうあの後ろのピッチャー二人はやべえな」とか「原口復帰感動した!おめでとう!」といった東大を30回ぐらい卒業しなければ溢れ出ないような知性にまみれた会話をしていた。彼は阪神ファンなのだ。私は広島ファンだが。
その会話の中で私が「ぼくのオススメは平井にある『まる政』って店です。一回行ってみて!」と言ったのだが、それに対して石田氏が「タケシはとにかく雑司ケ谷にある『ターキー』に行ってみてくれ、死ぬほど美味いから」と教えてくれた。どうやら彼が連載中の「dancyu」のwebサイトでこの店を取材したらしく、その時にいたく気に入った、とのことだった。その彼の記事はコチラだ。

どう考えても美味そうなので近々行こうと思っていたのだが、今日、たまたま千駄ヶ谷~池袋間の移動があったので、その道すがら寄ってみた。聞いた翌日である。デキる男は行動が早いのだよ。単に食い意地が張ってるだけではないのだよ。いや、単に食い意地が張ってるだけだけだけどな!

ラーメンの写真や店の外観は先ほどの「dancyu」のコラムを見てくれ。私も撮ったのだがあまり綺麗に撮れなかったので。一枚だけ冒頭に載せておいた写真がそれだけど。何ならどんな味だったかというのもそちらの記事を参考にしてくれ。書いてあることに一切の異論はないから。

今日、私も「ターキー」に行ってラーメンを食べた。

完全に美味かった。

店を出た後にもずっと口の中が後味で美味かったので、食後のタバコを吸うこともはばかられた。タバコを吸ってしまってはその後味がなくなってしまいそうな気がして。しばらくしてから吸ったけど(吸ったんかい)。

それは私の好きなラーメンだった。

その時に私はピアソラの静謐な音楽を想った。

そして、ジャズに心を奪われ、「おれも生きていても良いのかもしれない」とジャズに赦されたことを想った。

「ターキー」のラーメンは決して派手なラーメンではない。アゲアゲなバイブスで「うえーい!仲間ってサイコー!」と言っている風情ではない。静かに、けれど確かに、そこに一人で佇んでいる。そういった風情のラーメンである。しかしそれはしみじみと美しく、私のようにどこにいても常に居心地の悪さを感じるような人間をも赦す懐の深さがある。
飾ることなく、自然体で。しかし、全てのことに手を抜かずに丁寧に。
そうして作られたラーメンに私は赦されるのである。

帰り際に店主が常連客と「最近取材が多くてさ、全部断ってるんだけど、こないだdancyuって雑誌のインターネットのやつに書いてもらってさ」なんて話をしていたので、「あ、その記事書いたの、ぼくの友人です。ぼくも今日その友人に勧められてここに来ました」と口を挟んだ。店主は「そうかいそうかい、嬉しいねえ、また来てくれよ」と私に笑顔を見せた。「ごちそうさまでした、とっても美味しかったです。また来ます」と言って私は店を出た。


世界が一つになりませんように。私はそう思って雑司ケ谷の坂道を再び歩き始めた。

やって来た時よりも、ほんの少し世界は美しかった。

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