中年と海
ちょっとした自慢話からで恐縮なのだが、先月のとある日に一人で金沢八景にある相川ボートさんからボート釣りに出かけ、80センチ強のスズキを釣り上げた。上記のリンクページの下の方に、「江戸川区の福島さん」がいる。私である。ドヤ顔でスズキを手に持っている。30年以上魚釣りを趣味としてやっているが、これまでで一番の大物であった。
釣り上げた時の話をしたい。
この日はまずは小さなアジやキスなどを釣り、その釣り上げた小魚に針をかけて生きたまま海を泳がせてフィッシュイーター(小魚を捕食する大型魚、ヒラメ、マゴチ、スズキなど)を狙うという「泳がせ釣り」をしようと思っていた。私はこの泳がせ釣りがめちゃくちゃ好きなのだ。何の釣りが好きかと聞かれれば、「何の釣りが…」の時点で食い気味に「泳がせ釣り!」と即答したいほどに泳がせ釣りが好きだ。
ところが、この日はその肝心要の小魚がさっぱり釣れなかった。というか、朝から何も釣れなかった。手漕ぎでえっちらおっちらとボートを漕ぎ様々なポイントを流すも、何も釣れない。今日は私はボートを漕ぐ訓練に来たのだなと自分を納得させようとした時に、ちょうど一匹の小さなアジが釣れた。
私の中のパズーが叫んだ。「行こう!ラピュタへ!父さんは嘘つきじゃなかったんだ!」と。
そう、その小さなアジと共に約束の地へ向かおう。土に根をおろし風と共に生きよう。種と共に冬を越え、鳥と共に春をうたおう。と。
フィッシュイーター達の棲むポイントについた私は、アジの鼻に釣り針をかけ、それを海に流した。
もちろん釣れない。
そんなに簡単に釣れるはずがないのである。簡単に釣れないからこそ泳がせ釣りは面白い。自作のパラシュートアンカーをボートに装備し、ゆっくりと広いポイントを探る。
それでも釣れない。
そろそろ帰るかな。この小アジを帰って料理して一杯やるかな、そう考えてボートを漕ぎ出したその時に、釣り竿が大きな孤を描いた。
「やっぱりラピュタは本当にあったんだ!」
そう叫んで(叫んでないけど)釣り竿を手に取った。これまでに経験したことのない強烈な引きが手に伝わった。
「何ングウェイだよ!」と叫びながら(叫んでないけど)リールのハンドルを巻く。もちろんヘミングウェイである。「老人と海」である。私はまだ39歳なので「中年と海」である。
リールからどんどんと糸が出て行く。リールのドラグ機能よりも魚の引きの方が勝っていたのだ。魚が引くときには無駄に抗ってはいけない。糸が出て行くのは仕方がない。あちらが疲れた時に竿のしなりで魚を寄せ、寄せた分の糸をリールで巻いていく。また魚が抵抗し、糸が出て行く。寄せて、巻く。また糸が出ていく。三歩進んで二歩下がる。角刈りのチータも私の脳内で大熱唱である。
格闘すること約10分。やっと水面に現れたビッグサイズのスズキを、私はタモ網に収めることに成功した。
タモ網ごとボートに上げ、魚から針を外す。私の手は疲労と興奮でぷるぷると震えていた。目の前の巨大魚を見る。まさに先ほどまで海を悠々と泳いでいたそのスズキが、手漕ぎボートの船上でバタバタと動いている。震えるその手で、カバンの中からナイフを取り出し、エラを切った。魚の血を全て抜き、即座に氷で〆る手筈を整えたのだ。
その時私は、これまでに無いほど厳粛な気持ちになっていたのを覚えている。
80センチを超える魚は、本当に大きい。それを私はその場で殺したのだ。まさに「生き物の命を奪っている」という実感を、これまでにないレベルで抱えていたのだ。
魚釣りというのは考えてみれば非常に業の深い遊びである。命を殺し、それを食らう。そもそも私たちはそのようにしてしか生きていけないのであるが、その業の深さをとことんまで感じることが多々ある。
であるので、私は釣った魚が目当ての魚でなかったからといって路上などにそのまま放置する釣り人(結構いるんだ、これが)を心底から軽蔑している。命に対して無責任過ぎる。そのような輩に魚釣りをする資格はない。
話が少々逸れるが、これは覚えておいてほしい「私の考える魚釣りのルールもしくはマナー」というものがある。以下箇条書きにて。
・釣った魚は食べるもしくは逃がす。
・小型の魚や、中型でも抱卵した個体(特に根魚)などは積極的に逃がす。根魚の成長は遅い。
・ただし針を飲んでしまいエラに傷のついた魚は、逃がしても死んでしまうので、食べる。
・食べる際には最上の状態で無駄なく食べる。活け〆、氷〆は必須であり(神経〆は目下勉強中)、食べる際にも無駄なく食べる。皮は湯引きしてポン酢をかければ美味い。内臓は日本酒に30分ほど漬け込み臭みを取った後に生姜と醤油と酒で煮込めば美味い。中骨は小さいものであれば揚げて骨煎餅に。大きいものはアラ汁に。頭はカブト焼きもしくはアラ汁に。
・食べられる分しか釣らない。つい釣りすぎてしまった際には、干物にして保存食とするなどの方策を講じる。決して無駄にしない。
・当然のことながら釣り場へのゴミ放置は厳禁。持ち帰り必須。釣り糸や針を放置すれば、野良猫や鳥たちに危害を及ぼす。
ゴミの放置などに関して言えば、本当にマナーの悪い輩もいる。本音を言えば、その輩たちが放置したゴミをそいつらの顔に投げつけたい所であるが、無駄な争いは避けたいので、そういうことはせずに目についた範囲内の放置されたゴミは自主的に持ち帰ることにしている。
以上のことは、私が善人であるから心掛けていることではない。これは奪う命に対する畏怖なのだ。
私はその日、眼前の巨大なスズキをその場で殺し、そして氷で〆て持ち帰った。釣りに関して言えば、そのスズキを釣り上げた時点で道具の片付けを始め、お開きとした。何というか、もうそれ以上釣る気にならなかったのだ。もう充分殺した。私は半ば放心していた。あとはこのスズキに心から感謝し、どれだけ美味く食ってやろうか、そこに執心しようという気になったのだ。
実際、帰ってからそのスズキを捌き、身はサクに切って刺身等で食べた(全部食べ切るのに三日かかった)。皮は湯引きをしてからポン酢をかけ、小ネギを散らして食べた。内臓は日本酒に30分漬け込んだ後に醤油とおろし生姜と酒で煮込み食べた。頭は二つに割った後にカブト焼きとして食べた。中骨はいくつかにぶつ切りにした後に鍋に放り込みダシを取り、身はほぐしてその汁の中に投入、塩のみの味付けで潮汁とした。全てが絶品であった。
サクの保存方法であるが、私はいくつかに切ったサクを水で汚れなどを取り除いた後にキッチンペーパーでぐるぐる巻きにし、更にサランラップでぐるぐる巻きにしたものをジップロックの袋の中に密閉して冷蔵庫で保存している。これにより熟成させることも可能だ。特に白身魚は数日熟成させた方が美味い。今回のスズキも、三日目が最強に美味かった。
そんなわけで、私はスズキを堪能した。ありがたく、その命を頂戴した。
さて、以上の私の釣りの話は全て前置きである。長い長い前置きである。
本題に入ろう。
辺野古の海に、土砂が投入されている。その映像をしばしばニュースで見る。
ある程度海のことに関心のある人ならばすぐにわかるであろうし、そうでない人にもすぐにわかると思う。あの土砂投入は、間違いなく殺戮行為であるのだ。そこに生きる魚や珊瑚や鳥たちを殺す行為であるのだ。
もしも猫や犬が好きな人たちが、猫や犬を虐殺される動画を見たら、心が張り裂けそうになるだろう。私も猫も犬も好きなので、そんな動画を見たらものすごく悲しくなる。辛いを通り越して、痛い。
今回の土砂投入の映像を見るにつけ、私は本当に心が張り裂けそうになる。そこに生きる生命たちが、無残に命を奪われていく。食べる目的の生殺与奪ではなく、人間の理不尽な都合による生殺与奪である。虐殺の映像は、実に痛い。
無論、今も世界中のあちらこちらで海は埋め立てられている。それにより多少なりとも私たちの生活は便利なものになっているのだろう。そういった便利さを享受しているとは言え、魚と海を愛するいち釣り人としては、今回の土砂投入は本当に心が痛い。
猫や犬も、日々保健所で「処分」されているのだろう。その映像を殊更に見ることはないが、見たら心が痛むだろう。
国防の為だからこの埋め立てはやむを得ない。猫や犬も増え過ぎたから処分はやむを得ない。
オーケー、その理屈に一旦頷いてみるとしよう。
では、そこで犠牲になった海は誰のものなのだ?日本のもの?アメリカのもの?沖縄のもの?
私は、魚や鳥たちのものだと思っている。
そして業の深い我々はそこからいくばくかの命をいただきながら図々しくも生かせてもらっている。
ちょっとその視点に欠けてい過ぎやしないか?と感じてしまうのだ。
恐らく、あの土砂を投入している作業員たちも本意ではないだろう。こんなことしたくねえんだけどなー、というのが本音だろう。猫や犬を「処分」する保健所職員たちが「殺したいわけねーじゃん」と思っているのと同様に。
私を筆頭に、人間というのは実に愚かであると思う。愚かでない人間などいない、と思う。
しかし、愚かであることを忘れて、自らの安寧の為ならば他の命を奪っても構わないという傲慢な視点に立つ人を見た時に、私は深い絶望に覆われる。
何とかして、命を尊ぶ社会にはならないものだろうか。
私は、辺野古の海への土砂投入に、強く反対する。
対案など、ない。
理不尽に命を奪うことに、反対しているのだ。
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