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2018年7月20日 (金)

あの世からの手紙

あの世からの手紙
あの世から手紙が届いた。

と言うとにわかには信じてもらえないだろうと思う。

けれど、それは嘘のような本当の話なのだから仕方がない。死んでしまった人から、本当に手紙が届いたのだ。

昨日のことだった。昼のレッスンを終えて、夜は演奏の仕事があったから一旦自宅へ着替えを取りに帰った。家に入る前にポストを見ると、私には1ミリも興味がない広告が数枚に混じって、葉書が一枚入っていた。

極端に力強い筆致のその宛名書きには、はっきりと見覚えがあった。その葉書が誰からやって来たものなのか、私にはすぐにわかった。そして、わかると同時に強烈な眩暈のような感覚を覚えた。

その葉書は、友人の佐久間さんからのものだった。
佐久間さんは、先月末にガンで亡くなった。62歳だった。死んでいるので、佐久間さんから葉書が届くはずはなかった。しかし、その葉書は確かに佐久間さんからのものだったのだ。

おそらく、死期を悟った佐久間さんは生前に交流のあった人々へ病床から葉書を書いていた。そして佐久間さんの死後、佐久間さんのお姉さんがその葉書を投函した。種明かしをしてしまえばそういう事なのだが、それはまさに彼岸からの手紙だった。

葉書には、自筆の文字で「ありがとう」と書いてあった。

楽しい人生だった。周りのみんなのおかげだ。香典はいらない。その手のものは赤十字あたりに寄付しといてくれ。

そう記されていた。

佐久間さんらしいなあと思った。

ガンが発覚してから一度有明の癌研に見舞いに訪れた。病室を抜け出して、二人で外でコーヒーを飲んだ。佐久間さんは「タバコが吸いてえなあ」と言っていたが、ダメに決まってんだろ食道ガンなんだからとたしなめた。一時間ほど、佐久間さんの生い立ちの話を聞いたり私の最近の仕事の話なんかをした。

別れ際に私は佐久間さんに金を渡した。5000円だったと思う。「見舞金なんていらねえよ」と固辞されるのはわかっていたし、差し出した瞬間に予想通りに「いらねえよバカ」と言われた。私は、けれどそれは見舞金ではなくて、祝い金の前払いだと言った。ガンを治して回復しておれの演奏を見に来てほしい。その際には祝い代わりにミュージックチャージは奢るからその前払いだ、と言うと「わかった、そういうことならもらってやる」と言って受け取ってくれた。「回復したら演奏を聴きに行くから、おれが行くまでしっかり練習しとけよ」と言われた。

結局その約束は果たされなかった。果たされることなく佐久間さんは死んでしまった。多少心残りではあるが、仕方がない。

佐久間さんの死後、佐久間さんに関する面白い秘密が次々と露見した。言いたくてしょうがないぐらい面白いことばかりなのだが、ここに書けないようなことばかりだ。唯一書けそうなのは、貯金通帳の残高が2000円しかなかったことぐらいだろうか。何の財産も遺さずに綺麗に死んだ。天晴れだ。

家で着替えを取り、演奏に向かった。昨日はブルースのライブだった。佐久間さんのことを思いながら演奏した。とても楽しい演奏だった。

家に帰ってからもう一度佐久間さんからの葉書を眺めた。

「あの世から手紙が届くなんてビックリしてるだろうな」と悪戯っぽい表情で宛名を書いている佐久間さんが容易に想像できた。

自分の美意識を強く持って、美しく生きた佐久間さんを思った。

私の中でずうっと抑えてきていた感情が、ついつい決壊した。

佐久間さん、今年の東京の夏は、むちゃくちゃ暑いよ。

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