『65駅の恋』プロローグ~第一話
唐突にではあるが、当ブログはこれよりしばらくの間、小説の連載に入る。
約一ヶ月に渡って私が取り組んだガンダムスタンプラリーがその題材である。
なので基本的にはノンフィクション小説なのであるが、一つだけフィクションの要素を付け加えたい。それは、一人の女性の存在である。
実際には私は一人でそのスタンプラリーを完走したのであるが、そのスタンプラリーを回っている時にだけ会えた妄想上の女性の存在をフィクションとして付け加えたい。なぜそんなことをするかと言えば、バカバカしさにターボがかかるからだ。そしてスタンプラリーが終わってしまった時の喪失感は、失恋のそれと酷似していたからだ。
私は若い女性よりもBBA系の女性の方が好きなので、彼女の名前は「更年期子(こうねん・きこ)」としたい。「能年玲奈」のイントネーションで読んでもらうと尚良い。
それではプロローグから第一話まで。
《プロローグ》
十五歳の若い天才棋士が将棋界の伝説を打ち負かした直後に、二十三歳の美しいスケーターが氷上で奇跡的な演技を披露し、日本中がそんな快挙に酔いしれたその日、ぼくは秋葉原の路上で確かな達成感と、そして自分でも信じがたいほどの喪失感に包まれていた。
その日、ぼくのガンダムスタンプラリーは終わった。
そして、彼女はぼくの前から蜃気楼のように消えてしまった。
これは、ぼくと彼女「更年期子(こうねん・きこ)」の、地球防衛軍とジオン公国との戦争よりも濃密だった一ヶ月の記憶である。
《第一話》
スタート~松戸
《スタート~松戸》
JRが、ガンダムスタンプラリーを始めた。
東は取手、西は西荻窪、北は赤羽、南は蒲田。東京都、千葉県、茨城県にまたがる全65駅の改札外に設置された「機動戦士ガンダム」のキャラクターのスタンプをスタンプ帳に捺して集めることで、ガンダムのプラモデルがもらえる、という企画である。
初めに断っておくが、ぼくは「機動戦士ガンダム」のことをほとんど知らない。「ぶったね!二度もぶった!女王様にしかぶたれたことないのに!」と、名ゼリフを勘違いして覚えているぐらい、知らない。ちなみにこの間違った名ゼリフは伊集院光のラジオで頻繁に聞くことが出来る。ネタの出自はそこである。
「ガンダム」のことをほとんど知らないぼくがなぜそのスタンプラリーに取り組もうかと思ったかと言えば、ぼくは少々「テツ」であるからだ。漠然と「何となく死にたいなあ」という気分になったとき、ぼくはよく電車に乗る。知らない街に行って知らない景色を見て、少し気分がラクになる。
その日ぼくは、漠然と死にたかった。かと言って実際に死ぬ訳にはいかないので、電車に乗ってほんの少し遠くへ行こう、と思った。
どこへ行こうかなと思った時に、ふと目に「ガンダムスタンプラリー」のスタンプ帳が目に入った。
へえ、こんなのがやってるんだ、エリアはどこなんだろう。うわ、東の果ては取手って!スタンプ捺す為だけにわざわざ取手に行くのかよ!茨城県じゃんか!バカじゃねーの!
そう思ったその瞬間に「今日は取手に行こう」と決意した。
「スタンプを捺す為だけに茨城県」、この不毛さに、一瞬で魅了された。そうだ、ぼくは不毛なことこそを愛しているんだった。
取手へ、向かおう。
ぼくはそう決意した。
後から考えてみれば、この選択は非常に正しかった。65あるスタンプスポットの中でも最も「難所」であるこの千葉~茨城のエリアを先に潰しておく、というのはかなりの精神的なアドバンテージになる。そして金銭的にも良い。このスタンプラリーに必須アイテムである「都区内フリーきっぷ」でカバーしきれていない場所は二ヶ所あり、その内の一つがこの千葉~茨城エリアだった。
ぼくは金町駅から常磐線に乗り、最初のスタンプスポットである松戸駅の改札をくぐった。
スタンプ台が眼前に見える。スタンプのキャラクターは、「ゾック」というモビルスーツだった。再三になるが、ぼくはガンダムを知らない。「ゾック、誰だよ」と思いながらスタンプ帳にゾックのスタンプを捺す。
「タケシくん、それがゾックよ」
ぼくの横で妙齢の女性が微笑んだ。
それが、ぼくと期子の出会いだった。
(続く)
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