Abdullah Ibrahimがやって来る
私が本格的にピアノを弾き始めたのが大体15年ぐらい前の事。それが生業になり始めたのが10年ぐらい前。
そうやって考えてみれば無謀も良い所だ。始めて5~6年の芸事の道で食い扶持を探そうというのだから、無謀だし図々しいしデタラメだ。
なので私の職業音楽家生活は、「私はプロのピアニストです!」と力強くハッタリをカマす(もしくは嘘をつく)所から始まって、いかにその嘘を本当にしていくか、もしくはバレないようにしてやり過ごすかという、反則スレスレというかむしろ明らかに反則な手段を用いてどうにかしてきているので、音大を出たりコンクールで入賞したりと正攻法でプロになられた方々には後ろめたさこそ無いものの、申し訳なさを感じないでもない。コンクールなんか出ねえって。出たらヘタクソがバレちゃうじゃんか。音大とか受けたら間違いなく落ちるって。
嘘が真になったのかどうかは私にはわからないし、正直に言ってどちらでも構わない事であるけれども、嘘とハッタリから始まった私の職業音楽家生活はまだ今も続いている。多分ヘタクソなのは最初から今までずっとバレ続けている自信もある。
先月には初のソロピアノアルバムを出版した。
先月に発売開始した私の初のソロピアノアルバム『Self Expression』であるが、ありがたい事に聴いて頂いた方からちらほらと感想などを頂いている。
「この曲が好き」だとか「この曲からはこんな風景が見えた」などのご感想の他に、非常に多く頂いたご感想が「何か意外」という感じのものだった。
意外、と言われる意味は何となくわかる。
いかんせん技術に乏しいピアニストであるので、「足りない技術は気合いと気迫でカバー」というスタンスでやってきた。どちらかと言えば、無遠慮に、激しくピアノを弾いてきた。私がピアノを弾き始めた頃から見て下さっていた方にはその印象が強いのかも知れない。
それが、あるタイミングから徐々に変化が出てきた。
Abdullah Ibrahimというピアニストとの出会いである。
改名前のDollar Brandの名前でも日本で良く知られた彼の存在はもちろん知っていたし、そのレコードを気に入ってずっと聴いてきた。
10年ほど前から彼の来日公演の手伝いをさせて頂く機会に恵まれ、それまで以上にAbdullahの存在が身近になり、私は彼の音楽に没頭する事になったが、それが私にとっては非常に大きな契機となった。
音楽に対する根本的な敬意と畏怖が、遥かに強くなった。そして私は音楽というものを根っこから信じるようになった。
音楽とはここまで深遠な領域にいけるのだ、音楽とはここまで美しくなれるのだ。
Abdullahの音楽が私に伝えたのは、とんでもないレベルでの「音楽の可能性」である。
それを知ってしまったら自らも変化せざるをえなかった。音楽のたまらない美しさとその可能性を知ってしまったら、同じ黒白の88つの前にいる人間として「少しでもあの美しさに近付きたい」と願うことは、避けがたい欲求だった。
先月に出版した私のソロピアノのアルバムには、そのAbdullahからの影響は無視出来ない。それを聴いて少しでも「意外に美しい」と思って下さった方には、「Abdullahが私に美しく音楽を奏でたいという欲求を植え付けてしまったのだ」と釈明したい。
そんなAbdullah Ibrahimが、間もなく日本にやって来る。
10月10日と11日の二日間、京都の上賀茂神社での演奏を行う。
チケットは既に完売してしまっているのだが、幸運にも今回Abdullahを生で見る事の出来る方は、是非とも音楽というものの持つ無限の可能性を体感して頂きたい。
あー、アブさん来るぜ!
すっげー楽しみだ!
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