昨日のドラマーズジャム後記と今日の宣伝
本日は市川「O'D Diner」で歌のちゅんこちゃんとデュエットです。20:30~23:00ぐらいまで投げ銭制でやってます。ご都合宜しければ是非。
演奏の仕事に関しては基本的に「過去を振り返らない」という姿勢でやっているのでライブ後記を書く事は少ないのだけれど、昨日の「Orpheus」での「ドラマーズジャム」でとても心に残った事があったので、少しだけ。
まず一つ心に残ったのは、今回は小学五年生の男の子の参加があった事。
長年音楽の修行にいそしんで来た芸達者過ぎるオッサン達に混じって小学生の子供が楽しそうにドラムを叩いている姿はかわいらしくもあり、末恐ろしくもあり。好きなドラマーはレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムなんだって。何で小学生なのにツェッペリンファンなんだよとツッコミたくもなったけれど。
彼のドラムの先生である町田氏との共演。生徒を暖かく見守りながら超絶テクをカマしまくる町田氏も良かったなあ。
で、実は昨日一番印象に残ったというか、心を強く打たれたのは、ジャズスタンダードの「Stella by starlight」の演奏。本当に素晴らしかった。
この演奏には伏線というか裏話があって、本番前の楽屋で、ホストギタリストの稲葉くんがテンパっていた。「どうしたの?」と聞くと「マジでヤバイです!今日、ぼくの師匠が来るらしいです!マジでヤバイ!勘弁してほしい!」と完全に錯乱状態。それを見て同じくホストベーシストの鴻野くんと私はにやにやと笑っていた。「良いねえ、そりゃあ。最高だねえ」と。
本番が始まってからしばらくしてから稲葉くんの師匠のS氏がいらっしゃった。ちなみにS氏はピアニストだ。緊張して凍りつく稲葉くん。
暫くしてから、それでは師弟共演でも、という話になって上記の「Stella by starlight」をS氏がピアノで稲葉くんがギターで演奏する事になった。
もちろん演奏の中身は素晴らしいのだけれど、それはプロ・ミュージシャン同志の共演なのだから当たり前だとして、その演奏中の稲葉くんとS氏の表情とか出している音とか、そんなのがものすごく私は見ていてぐっと来た。ちょっと泣きそうになった。本当に良かった。
稲葉くんはいつもより固かった。緊張していた。でも、それが良かった。師匠に対する心からの敬意。今の自分はこれぐらいまで出来るようになりましたよ、という所を全て出し切ろうという心意気。そんなものがひしひしと伝わってきた。
S氏も「まだまだお前には負けねえぞ」という気合いでぐいぐいと行く。白熱していく演奏。
そう、演奏としてのクウォリティももちろん高かったのだけれど、問題はそこじゃない。演奏に強烈な愛があった。愛が、演奏を駆動させていた。
師匠と弟子の愛。そんなものに強く心を打たれた。
そしてそれはすごく羨ましかった。
私の師匠、市川修は今から9年前、2006年にこの世を去った。私は師匠が死んでから半年後ぐらいにプロの音楽家としてのキャリアをスタートさせた。師匠が生きている時は私はアマチュアの学生だったし、プロの音楽家として師匠と共演した事は無い。そしてそれは今後絶対に叶わない。何せ死んでしまっているのだから。
もし今、師匠が生きていて演奏を見て頂く事があれば、あるいは共演させて頂く事があるとすれば、どんな感じなんだろう、と思った。
多分「何にもわかっとらん!ドアホ!」と怒られるのが関の山だとは思うが、それでももしそんな事があれば、昨日の稲葉くんと同じようにガチガチに緊張しながらも「今の自分の持てる力を全て出し切ろう!」と張り切るのは間違いない。それは稲葉くんがS氏を尊敬し愛しているように、私も市川修という師匠の事を深く尊敬して愛しているからだ。
音楽の教育には色んな形があって良いと思う。褒めて伸ばすやり方もあって良いし、厳しくいくのもアリだと思う。
私の記憶にある師市川修はムチャクチャ恐い。レッスンが終わった後に半べそをかきながら家に帰る事もしょっちゅうあった。「何だよオッサン、あんなにきつい言い方しなくても良いじゃんかよ」と一人で愚痴りながら帰っていた。そして悔しいのでむちゃくちゃ練習して次のレッスンに行っても、「あかん!全然わかっとらん!」と全否定される。これの繰り返し。
けれど、今の私の根っこを形成しているのは間違いなくこの時の体験だ。
そして私は今でも市川修という死んでしまった人間の事を尊敬しているし、深く愛している。おそらく彼も私の事を愛していた。私の事を愛していたか、さもなくばものすごく性格が悪かったかのどちらかでなければあの地獄のようなレッスンは説明がつかない。いやあ、恐かった恐かった(笑)
かけがえの無い、大切な記憶です。
師匠、オレはプロになりました。
まだ全然売れてなくて、ピアノもヘタクソなまんまですけど、何とか食ってます。
腹も出て来ました。着々とオッサンになってます。
ジャズが、毎日どんどん好きになっていきます。ピアノが楽しいです。
あなたに会えて、とても良かったです。
そんな事を、ふと思いました。
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