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2013年10月11日 (金)

韓国記3

宿泊していたゲストハウスの周辺を散歩している時に、一軒のジャズクラブを見つけていた。ちらっと店内を覗いて「今晩はライブはありますか?」と聞いた所、20:30からだと言うので後から来ようと思っていた。

折角だから「韓国のジャズ事情」もリサーチ出来れば良いなという目論見があった。

「ジャズ」と一口に言っても様々なジャズがある。今の韓国ではどういうジャズが流行っているのかを知りたかったし、後は多少イヤラシイ話になるのだが、どれぐらいのレベルのミュージシャンがどれぐらいのミュージックチャージを取って演奏しているのかを知りたかった。

ジャズクラブに着いたのが20:15ぐらいで、絶賛お一人様である私は隅に座ってビールを注文した。ミュージックチャージは5000ウォン(約500円)と安かったのだが、ビールは一本8000ウォン(約800円)と高かった。

どんなバンドが出て来るのだろうと楽しみにしていたが、私の背後に本日のバンドマンらしき連中がいた。この辺はやはり同業者の勘でわかる。「あ、こいつらミュージシャンだ」と。

勿論その勘は当たっていたのだが、彼らは韓国人ではなかった。白人の5人組だった。後からわかったが、スウェーデンからやって来た5人組のバンドだった。

この時点で私は少々心が萎えていた。

「えー、韓国のジャズ事情が知りたかったのにー。白人かよー。しかもこいつらきっとフュージョンとかコンテンポラリーとかやるんだろー。オサレなやつー。えー、ヤダわー、おもんねーわー」と。

そりゃあビシッとスーツを着た五人のイケメン白人。私がそう思うのも無理はなかったのだが、ステージが始まった瞬間それは完全に裏切られた。

バックビートの良く効いたセカンドラインのドラムが叩かれた瞬間に自然と身体が動き出す。そこにエレキベースが強靭な2ビートを刻み込む。

フロントはアルトサックスとテナーサックスの二管だったのだが、その片割れが「本日はようこそ!云々かんぬん」と簡単に挨拶をしてから歌を歌い出す。

「Let's fly down, or drive down, to New Orleans」と。

ギャア!私の大好きな歌の「Bourbon street parade」だ!

一番の歌詞を歌い終わった所で再びフロントの片割れが挨拶をした。

「我々はスウェーデンからやって来ましたJAZZ5というバンドです。ニューオーリンズスタイルのジャズを演奏しています。今夜は楽しんでいって下さい!」と。

完全に裏切られた。勿論良い意味での裏切りだ。ニューオーリンズスタイルのジャズというのは私の専門分野であり、最も好きなジャズの形態だ。しかもこのバンド、べらぼうに上手い。全ての楽器の人間が極めて高い技術を持ち、そしてこの上なくゴキゲンな演奏をする。

「ギャップ萌え」というのは確かに存在する。自分が相手に対して抱くイメージというものはある意味では相手を枠の中に嵌めて考える事であり、それは「恐らくこいつはこんな人間なのだ」という無意識の限定だ。そこからはみ出した一面を見た時に、人は時にキュンキュンに萌える。

仮に私が女優の石田ゆり子女史にデエトに誘われたとする。

「ねぇ、今日行きたいお店があるんだけど、たけちゃん一緒に付き合ってくれない?」と。

「良いよ、ゆりちゃんの行きたい所ならどこでも良いよ」と穏やかに私は答える。しかしそれと同時に心中では「ゆりちゃんの行きたい店って事は何とかヒルズの45階ぐらいにあるレストランだかバーだかで、そんなん一回行ったら幾らかかるんだよ!やべえぞオレ今日3000円しか持ってねえぞ!?」というみみっちいシャウトを一通りカマした後に「ラララ無人くんラララ無人くんラララ無人くん」と虚ろな表情で歌いながらサラ金から借金をしなくてはならない。

しかし、私のそんな心配をよそにゆりちゃんが私を連れて行ったのは下町の赤ちょうちん。ゆりちゃんはちょっと恥ずかしそうに

「オヤジくさいって笑われるかも知れないけど、実はあたしこういう所、好きなの」

そう言って笑顔で焼酎ハイボール(氷ナシ)を啜るゆりちゃん。

瞬殺である。あまりの可愛さに瞬殺されてしまう。もはや警察に通報しないといけないレベルのギャップ萌えである。

「お巡りさん!早く来て下さい!激しく可愛らしい人がいます!このままではぼくはギャップ萌えで悶え死んでしまいます!」と。

そこまでの激しいギャップ萌えではなかったにしても、明らかにシュッとした感じの長身白人五人組が演奏するゴキゲンなニューオーリンズジャズ。これにキュンキュン来ない訳がなかった。

その後も「Basin street blues」だの「St. James infirmary」だのといった私の大好きな曲のオンパレード。

激しく素敵なライブだった。観客も満員だったのだが、そりゃそうだろと納得。こういうライブは本当に良い。韓国のジャズ事情を伺い知る事は出来なかったが、しっかりと満足した。

宿に帰る前にコンビニで缶ビールをもう一本買って周辺を軽く散歩した。こういう所は日本と何ら変わらない。便利さが常に良いとは思わないが、どこでもビールが呑めるのはなかなかに良い。

宿に帰ったらすぐに寝た。

翌朝起きた私は梨泰院から電車に乗って加平を目指した。

今回の韓国旅行の最大の目的であるAbdullah Ibrahimに会いに行く為だ。

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