揚げ餅

旨い肴に旨い酒、というのが最高な組み合わせである事に異論を唱える者は少ないだろう。

確かに気心の知れた仲間と共にならば、「呑むと100％（ひゃくぱー）三日酔い」でおなじみの激安焼酎「大五郎」でも旨いかも知れないし、美しい景色を見ながら呑むエチルアルコールもそれはそれで染みるだろう。いや、エチルは別の意味で染みるかもしれないが。

そういった嗜む状況（そのシチュエーションや共に呑む仲間）という事を全て考慮に入れなかった場合、やはり何につけても「旨い肴に旨い酒」というコンビネーションは最強だ。釣りたての鰺の刺身に併せる純米吟醸酒、この組み合わせの為ならば私は愛する妹をも質に入れる覚悟だ。ちなみに私に妹はいないのだが。

こういった組み合わせがたまらなく素晴らしい一方で、こういった「ＵＣ（ウマイ・コンビネーション）」には、とかく金がかかるというのも常識だ。

私の聞いた話ではギリシャが現在未曾有の経済危機らしいが、その原因はこのＵＣを追い求め過ぎた結果だとの事だ。生ハムに高級ワイン、きっとそんなＵＣをヤツらは追いかけ過ぎたのだ。そんなもんサイゼリヤに売るほどあるのに。

上述したように私にとっての極上のＵＣと言えば「新鮮な魚の刺身と上品な日本酒」というのが最上位であるが、この組み合わせを毎日堪能していては我が家の財政はたちどころに破綻する。あまつさえ私はデブになる。今もデブだが。

という事はそれに代わる代替案を講じなければならないのは自明の理だ。「安い酒と安いツマミ」のコンビネーションの中でも珠玉の組み合わせを見つけなくてはならないのだ。

実はもう見つけてある。

コンビニで買えるのだが、酒はレモンチューハイで結構だ。ストロングであれば猶良し。問題はツマミである。

ツマミはずばり「醤油揚げ餅」、これでキメ打ちだ。レモンチューハイと醤油揚げ餅のＵＣ、価格にして300円ほどだ。

醤油揚げ餅。これは私にとって思い出の味であって、死んだ祖母がよくこれを自作していた。

自宅の軒先に網を吊るし、その中にサイコロ大に切った餅を幾つも入れ、干して乾燥させていた。

その後どういう行程を経て完成させていたのか詳細は知らぬが、祖母はよく醤油揚げ餅を作り、私に振る舞ってくれていた。

コンビニで売っている醤油揚げ餅は、祖母の作ったそれには流石に及ばない。私の思い出の中でその味が過大に美化されているのかも知れないが、やはりコンビニの商品ではイマイチだ。

しかしそれでも醤油揚げ餅をぽりぽりと食っていると、何とは無しに死んだ祖母の事を思い出して穏やかな気持ちになる。

こんな安いツマミと安い酒でも、それなりには幸せになれる。

貧乏生活もそんなに悪くはないのだ。