脱「二軍の帝王」
雪。
粒が細かいのが残念だが、それでも美しい。
粒の細かい雪は「それ(雪)自体」よりも「舞っている様」が美しい。ひらひらと踊るように。
じきにやんでしまうのがとても残念だ。
さて、カープの話を読んでもらおうか。広島カープ。野球の話である。開幕が近付いているこの時期はちょくちょくカープの話がしたくなるのだ。
今日紹介したいのは、迎祐一郎という選手である。昨年トレードによりオリックスバファローズからやって来た外野手である。彼の事を少し。
彼には現在、大変に不名誉なニックネームが付けられている。曰く、「二軍の帝王」と。
そうなのである、彼は現在「二軍の帝王」なのだ。一軍ではなく。
ある程度の規模を持ったスポーツチームならば、そこに一軍と二軍、多い時には三軍四軍までもが存在する。いや、スポーツチームに限った話ではない。例えばオーケストラにだってそれはある。表舞台で勝負をする一軍と、そこに控える二軍である。
この一軍二軍の構造を考えた時に、それぞれの舞台での「活躍」の意味が少々違ってくる事はおわかりだろうか。一軍での活躍は、手放しに賞賛されて良い。それは即ち「結果を出した」という言葉とほぼ同義だ。
二軍での活躍、これはそういった一軍での活躍とは異なり、「一軍に行くチャンスをもらう為の活躍」という事になる。事実、二軍でいくら活躍しようとプロ野球選手の給料(年俸)は上がらない。給料が上がるのは、一軍で活躍した時である。
すごく乱暴な言い方をしてしまえば、「二軍でいくら活躍しようと一軍で結果が出せなければ意味が無い」。そういう事なのである。
さて本日紹介する迎選手。「二軍の帝王」のニックネームが表すように、二軍での彼の活躍は大変に素晴らしい。ある年などは打率、打点、本塁打の三冠王を獲得した事もある。それに関しては文句のつけようがない。
しかしこれは「ダメな事」なのである。
考えてもみてほしい。二軍でそれだけ活躍しているならば、一軍の監督コーチ陣から「アイツは良いじゃないか」と声がかかり一軍へ昇格していなければいけない。つまり、二軍でしっかり結果を残してしまうほどの期間二軍に滞在している事がプロ野球選手としてはダメなのだ。
ではこの迎選手、何故ここまでの成績を二軍で残しながら一軍に呼ばれない(定着しない)のか。
その答えは極めて簡単である。
単純に「一軍で打てない」からである。
とても不思議なのだ。二軍での活躍ぶりを見れば「これは打つだろう」と考えて当然の迎選手であるが、一軍で打席に立てばお決まりの三振かゲッツー。「由宇に帰れ!」というカープファンからの怒声が飛ぶ。「由宇」とはカープの二軍(三軍?)がある所である。
繰り返して言うが、一軍で打てなければ何も意味は無い。二軍での活躍は所詮はチャンスを得る為のものである。迎選手が一軍で活躍出来ないのは、まさに「打つ打つ詐欺」なのである。
確かに我々音楽家の世界にも同じような奴がたまにいる。練習やリハーサルでは素晴らしいのだが、本番では全くダメな奴。何故なのだかわからない。あんなに上手いのに、という奴が。
努力や過程を評価されるのはアマチュアの世界であり学生の世界である。
(上達、という事を念頭に置いた時には過程が非常に重要である。評価されるべきポイントでは無いが、重視されるべきポイントである)
しかしプロフェッショナルとして何かをやる以上、結果が求められるのは当然だ。結果を出せない人間はプロの世界では失格の烙印を押される。そんな人間に金を払う価値は無い、という訳だ。
しかしここ最近の迎選手、今年こそは違うのではないかという雰囲気をぶりぶりに漂わせている。オープン戦においては二打席連続ホームランなんて事もやってのけた。二塁手の東出輝裕選手も「全然これまでと違う」と迎選手のバッティングを絶賛していたそうだ。
もはや若手ではない迎選手。今年は残された数少ないチャンスだ。飛躍の年になる事を祈っている。
「帝王」と呼ばれる場所は、もう二軍でなくて良いだろう。
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