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2011年12月19日 (月)

アドリブ講座

過日、とある生徒から「all the things you are」というスタンダード曲でうまい事アドリブが取れん!ツーファイブってどうやったら良いの!何か良いお手本ない?という旨のメールを頂いた。

今日、仕事の移動中に電車の中で暇だったのでそれに答えるメールを返してみた。頑張って書いたのでここにも晒してみる。ジャズを学んでいる人達に少しでも足しになれば。

という事で以下。

昨日のご質問の件、お答えします。

まずお手本になるような演奏という事ですが、ぼくがぱっと頭に思い浮かんだのは、アルトサックスのチャーリー・パーカーの演奏したものと、テナーサックスのコールマン・ホーキンスが演奏したものです。アルバムタイトルはパーカーの方が「jazz at massey hall」でコールマンが「the essen jazz festival all stars」です。どちらもピアノはバド・パウエルだったような気がします。取り分けコールマン・ホーキンスのソロは好きです。

それから、この曲(all the things you are)に関してですが、ご存知のように約四小節の間隔で転調を繰り返しますよね。まずはツーファイブを意識するよりもその各自のキーとそのメジャースケールをしっかり弾いてみる、というのがアドリブする際の基本になります。最初の5小節(Fm7からD♭△まで)ならばキーはA♭、シミラレの四つが♭になるキーです。で、6小節目から8小節目まではキーはC、全ての♭が取れます。

という事は、最初の5小節を「ラ♭シ♭ドレ♭ミ♭」で弾いてみて、(6)、7、8小節目を「ラシドレミ(全てナチュラル)」で弾いてみると、わかりやすく転調した感じが出ます。(6)としたのは、実は厳密にはこの6小節目の「Dm7♭5−G7」はまだキーがCでは無いからですが、ま、細かい事は一旦置いといて下さい。

で、続く9から13小節目(Cm7からA♭△)まではキーはE♭、シミラの三つが♭になるキーです。その前のキーがCなので、単純に♭を三つ加えてやれば良い、という事ですよね。更に(14)15から20小節目まではキーはGなので、♭が全部取れてファの音にシャープ、となります。

先に説明したように、まずはこのメジャースケールの中で色々とアドリブをしてみて下さい。メジャースケールだけなので当然フレーズが単調になりますが、最初はそれで構いません。まずはキーが変化している事をこういう訓練によって把握して下さい。

もう一つ、いつも言っている事ですが「曲の事を考えてアドリブをする」という事があります。曲を無視してコードだけを見ながらアドリブをするのならばわざわざこの曲をチョイスする必要も無いという事ですよね。やはり曲(テーマ)とアドリブに関連性がある方が良いです。特にアドリブソロの1コーラス目などはまだ充分にテーマの余韻があるので、テーマを意識しながら弾いた方が良いと思います。

という事でこの曲の特徴ですが、テーマをよく見て二つの事に気付いてもらいたいのです。

一つは「白丸の、拍数の長い音符が多い」という事です。ぼくはこういう曲をやる時には「ロングトーンや休符が効果的に使える」というアイディアを思い浮かべる事が多々あります。八分音符を基調にしたアドリブというのがビバップの常套句ですが、そういったビバップの流れに入る前にロングトーンや休符を使って「スペースのあるアドリブ」をするというのも有効なアイディアの一つだと思います。

またもう一つの特徴に、「テーマのメロディーが、各コードの3度の音を繋いでいる」という特徴があります。最初から見て行って「Fm7(ラ♭)↑B♭m7(レ♭)↓E♭7(ソ)↑A♭△(ド)↓D♭△(ファ)」というように、全て3度の音を繋いでいます。↑だの↓だのの印は音が上に移動しているか下に移動しているかを示しています。「Fly me to the moon」なんかもこの傾向がありますよね。3度から3度。

で、アドリブ時にもこの3度から3度を繋ぐというアイディアが有効になります。ただ、先程書いた「Fm7(ラ♭)↑B♭m7(レ♭)↓E♭7(ソ)↑A♭△(ド)↓D♭△(ファ)」をそのまま使うとテーマとまるっきり同じになってしまいますから、例えば矢印の向きを全て逆にして「Fm7(ラ♭)↓B♭m7(レ♭)↑E♭7(ソ)↓A♭△(ド)↑D♭△(ファ)」としてみる、なんてのも良いかも知れません。また、それぞれの音を繋ぐ時に、先程言ったようなメジャースケールの音を使うのも手です。少しメロディーっぽくなる筈です。っていうか「fly me to the moon」のメロディーみたいになりますけど。

また、テーマのメロディーは3度を繋いでいるから、じゃあアドリブの時には5度を繋げてみよう、なんてのも良いかも知れません。大事なのは「アドリブの1コーラス目にはテーマの余韻が残っている」という事を覚えておく事です。

それからツーファイブの事についてですが、Ⅴ(5)度の時に音を外してⅠ(1)度で解決する事によってジャズでは「オイシイ」フレーズ、というのがよくありますが、まずは以下の2つのパターンを練習してみて下さい。

1:Ⅴ7の#9度→♭9度→Ⅰ△の5度

2:Ⅴ7の♭13度→#11度→Ⅰ△の1度

キーをCで考えると、1のパターンは、G7の時にシ♭(#9度)→ラ♭(♭9度)→C△でソ(C△の5度)

2のパターンはG7の時にミ♭(♭13度)→レ♭(#11度)→C△でド(C△の1度)

です。G7の時の「シ♭ラ♭」の組み合わせや「ミ♭レ♭」の組み合わせはCのメジャースケール内には無い音ですから、「あれあれ大丈夫?」というような不安定な響きになります。それがソだとかドだとかというような「思いっ切りCのキーの中の音」に落ち着く事で、「ノープロブレム、大丈夫だ」となる訳です。

他のキーでの動き方は自分で数えてみて下さい。

また、慣れたら上にあるパターンとは別のオルタードテンション(不安定な音)からメジャースケール内の安定した音、というのも練習してみて下さい。

なお、もちろんⅤ7の時にメジャースケール内の音を弾いても全然おかしくはありません。

音の使い方なんかに関しては簡単にこんな所にしておきます。気をつけてもらいたいのは「どの音を使うか」という事と同じかそれ以上に「どうやって使うか」というのが大事だという事です。フォルテで弾くのかピアノで弾くのか。伸ばすのか切るのか。オクターブはどこにするのか等々。冒頭に挙げたお手本演奏を聴く際に、そういった部分も注意深く聴いてみて下さい。

もちろんバンドで合奏する時には周りの人間がどうやって弾くのかによってもアドリブフレーズは変化します。ぼく自身も普段の一人の練習の時にはオルタードがどうだとかアッパーストラクチャーがどうだとかを考えながら練習していますが、バンドの中に入って合奏する時には一回そういう事を完全に忘れるようにしています。あらかじめ用意したフレーズをアドリブソロで弾くのって何だかつまんない、というのがあるので。

という事で、長くなってしまいましたが、こんな感じです。頑張って練習してみて下さいね!

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