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2011年11月 6日 (日)

意地のぶつかる127球

昨日のプロ野球、パ・リーグCS、ソフトバンク対西武の一戦は実に見事な試合だった。

最終的な幕切れは、今年から導入された「三時間半ルール」により若干尻窄みな感はあったが、そこまでの試合内容は、ここ十年の中でも五本の指に入る名勝負だったと私は感じている。

昨日の名勝負の主役は、両チームのエースである。

西武ライオンズからは涌井秀章投手、ソフトバンクホークスからは杉内俊哉投手。共に、現在球界を代表する凄腕のピッチャーだ。

昨年は我が広島カープの前田健太投手、今年は楽天イーグルスの田中将大投手が投手としてはほぼ最高に近い素晴らしい成績を収めた。また、ご存知のように彼らの同世代にはダルビッシュ有投手という日本プロ野球史上最高の投手と言っても過言ではないバケモノがいる。どうしても彼らの影に隠れてしまう事もしばしばある杉内投手や涌井投手であるが、彼らもまた近年稀に見る素晴らしい投手である事には変わり無いのである。

というよりも、ここ数年の成績の安定感においては少なくとも先に挙げた田中・前田両投手よりも、涌井・杉内両投手の方が上だ。彼らは名実共に現在のプロ野球界を背負う選手なのだ。

その両エースの一騎打ち。昨日の試合は完全な投手戦の様相を呈した。最高水準の技術のぶつけ合い、そして強烈な意地と意地とのぶつかり合い。驚くべき事に何と試合は九回終了まで0対0のスコアで進んだ。両投手の「絶対に一点たりともくれてやるものか」という気迫の為せる業である。

先に均衡を破ったのは西武ライオンズの方だった。10回の表にそれまで無失点のピッチングを見せていた杉内投手が西武打線に捕まり、ついにスコアボードに「1」の文字が刻まれた。崩れ落ちながら悔し涙を見せる杉内投手。

これは私の推測に過ぎないのだが、彼は西武ライオンズと戦っていたばかりではなく、敵軍のエース涌井投手とも戦っていたのではないだろうか。チームとしての勝負はもちろんの事、個人としての勝負である。そして何より「エースである自分」と勝負していたのではないだろうか。

考えてもみてほしい。127球、10回1失点。「よくやった、お疲れさん」とは言われようとも、誰も批難などしない堂々たる成績である。チームの事を考えれば間違いなくそうだ。しかし、杉内投手は悔しさを隠さなかった。それは恐らく、涌井投手との勝負に負けた悔しさ、そして己に負けた悔しさではなかったのだろうか。とても印象的なシーンだった。

そしてその回の裏、10回裏にこのゲーム一番のドラマが待っていた。

2アウトまではスムーズにアウトを重ねる西武のエース涌井投手。あと一人抑えれば勝ち、という所で小久保選手にヒットを浴びた。ソフトバンク、続くは長谷川選手。1ボール2ストライクからの四球目、外角一杯にストレートが決まる。見逃し三振か!?と思ったが審判の手は動かない。ぎりぎりでボール、という判定が下った。あれは三振でもおかしくは無い。長谷川選手も「これで一度は死んだ身」と開き直ったのかも知れない。そしてその二球後、内角に投じたスライダー、再び集中力を高めた長谷川選手はそのボールを見事に打ち返した。ランナーが帰る。再びスコアボードに「1」の字が刻まれる。同点である。9割以上決していた勝負が、土壇場で振り出しに戻ったのだ。

マウンドの涌井投手は、その数分前の杉内投手と同じように崩れ落ち、そして悔し涙を見せた。まるでユニフォームの違うバージョンのリプレイ画像を見ているかのようだった。

涌井投手もまた、チームとしての戦いにのみならず、個人として杉内投手と戦い、そしてエースである己と戦っていたのだ。

10回1失点。奇しくも球数は全く同じ127球であった。

こんなドラマがあるだろうか、と私は背筋を震わせた。

その後の結果はご存知のようにソフトバンクの勝利である。クライマックスシリーズの決着である。

確かに一年間ペナントを戦った総決算の、重要な意味を持った試合である。しかし、それ以上の意味がこの試合にはあったのではないだろうかと私は思うのだ。つまり、後から振り返った際にこの試合こそが「ターニングポイント」になった試合であるというような、そんな特別な意味を持った試合である。

それは、涌井杉内両投手の「覚醒」のターニングポイントではないかと思うのだ。

先にも述べた通り、両名とも既に日本球界屈指の好投手である。一流である、と言っても良い。その一流である両投手が、「超一流」になるターニングポイントとなる試合、昨日の試合はそんな試合だったのではないだろうかと私は思うのだ。

人は悔しさから大きくなる。

日本シリーズでの杉内投手、そして来シーズンの涌井投手。この二人のピッチングは刮目して見たい。

さて、私は今日はライブ。これもやはり己との戦いだ。

11月6日(日) 小岩 Back in time
03-3659-0351
http://www.bqrecords.net/backintime.htm
ボーカリスト山根健一さんのバンドに参加します。アル・ジャロウのナンバーを中心に、普段の4ビート系の音楽とは一風変わった音楽をお届けいたします。
vocal:山根健一 bass:上條貴史 drums:南たけし piano:福島剛
19:00〜open 20:00〜start チャージ:2000円

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