9月22日の独り遊び
かみさんが「家で集中して仕事がしたい」というので、家でゴロゴロしていた私は家を出て行く事にする。出て行くというよりは、追い出される。3000円の小遣いをもらって。小学生みたいだ。
だがしかし、一人で遊ぶのは私の得意分野だ。任しておきなさい、と得意げに家を出た。
何をしようかと思案した私であるが、真っ先に頭に浮かんだのは「公園のベンチで缶ビール」という、今流行りの「底辺系」の遊びである。
内容をつぶさに説明すると、文字通り公園のベンチに腰掛けて缶ビールをプシュリ。濁った目をしながら時々軽く舌打ちなんぞをして「みんな死ねば良いんだ」などと世の中を拗ねるフレーズをぽつり、という遊びである。あまりやり過ぎると本当に死にたくなってしまうというデメリットがあるが、まさに今若者達に大流行のこの遊びである。先日も渋谷でギャル達が「今からベンチビールいっとく?」「底辺系?マジパネエ!」「目え濁らせちゃう?」「それマジ超アツいんですけどー」と言っていたのを聞いた。本当に大流行しているのだ。
「さーてベンチでいじけますかなー」と上機嫌でコンビニに突入、缶ビールを物色していた辺りで、外の空模様が一変してしまった。急に雨と強風がダブルでやって来てしまったのだ。この「公園ベンチビール(KBB)」という遊びは多分にアウトドア的な要素を孕む。雑誌で言えば「ビーパル」あたりが「今年大流行のKBB」と特集を組みそうなものである。アウトドアに悪天候は天敵だ。「KBBは中止だ」。そう呟いて私は手に持ったビールを商品陳列棚に戻し、何も買わずにコンビニを出た。
一つの事がうまくいかなかったぐらいで全体のバランスを損なうようでは「独り遊びの匠」とは言えない。十重二十重に張り巡らせた重厚な作戦と、臨機応変な機転で対応するのが匠の技である。私は雨と強風を避けるようにして、以前より一度行ってみたかった近所の店舗を訪れた。
店の名は「たこ田信玄」。今年の6月にオープンしたタコ焼き屋である。この店、お笑いコンビ「麒麟」の田村裕氏のお兄さんがやっているという事で話題になったのだが、それとは別に私は周囲からこの店に対する良い意味での口コミ情報を幾つか聞いていた。曰く「雰囲気が良い」、「タコ焼きが美味い」、「昼から呑める」等々。ならば行くタイミングはまさに今日だった。昼から呑む気満々の私であったのだから、それはばっちりなタイミングであったのだ。
行ってタコ焼きとビールを注文した。タコ焼きはソース味、塩味、しょうゆ味とあったのだが、私がチョイスしたのはソース味。酒のツマミとしては少々味の濃い方が良かろうと踏んだのだ。これが結果的に正解。タコ焼き自体も味がしっかりしているというのはあったが、ソースが濃厚でツマミとしては抜群に良かった。酒を呑まずにそれ単品で食べる時には、或いは塩味やしょうゆ味が良いのかも知れない。今度また食べてみたいものである。
ビールセットを平らげた後は、その近くの小岩図書館へ。ここでは読書。雑誌の「ビーパル」をパラパラとめくり(そう言えば「KBB特集」はなかった)、その後は「右四間飛車戦法」という本を熟読する。端歩の対応の仕方の話が非常に為になった。
図書館を後にしてからが匠の技の真骨頂である。完全な思い付きのみで、私はサイクリングに出掛けた。行動の前後に何の脈絡もないが、これが匠の技なのだ、とご理解頂きたい。
訪れたのは、千葉県国府台にある里見公園。ここは公園自体も良いのだが、そこへ向かうサイクリングロードが良いのだ。江戸川の脇を通る道である。昨日の大雨で増水して流れが速くなった江戸川が、闇に照らされて何とも美しかった。
ちなみに今この文章を書いているのが、里見公園のベンチである。公園のベンチなのにビールを持っていない。
これはいかん、という事で、今からビールを買いに行く。
それではまた来世。
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