「おくりびと」
映画「おくりびと」をDVDにて観る。
数年前に公開された映画だが、その時には観る機会に恵まれなかった。ちょっと気になっている、ぐらいの映画だと、タイミングが合わないと中々観に行けない。すごく注目している映画ならスケジュール調整をして無理矢理にでも観に行くのだけれど。ちなみに今封切りを楽しみにしている映画は、若松孝二監督の三島由紀夫に関する映画だ。これは絶対に観に行きたい。
ただ、その映画、「おくりびと」の評判は、当時あちらこちらから耳に入っていた。曰く、「とても良い映画だ」と。そういう評判を耳にしていた数年後の昨日、実際に観終わった感想は、綺麗にそこに一致した。実に良い映画だった。
まず驚いたのは、主役小林を演じていた「モックン」こと本木雅弘氏の演技だ。一言で言ってしまえば、私は彼の事を見くびっていた。あんなにも素晴らしい役者だとは知らなかった。
本木氏演じる主役小林には、あまり饒舌な台詞は割り振られていなかった。つまり、決して台詞の多い役どころではなかったのだ。
本木氏は所作と、表情と、そういった「台詞を伴わない演技」によって、必要十分な情報を我々観客に伝える事に成功していた。
それが最も効果的に際立ったのが、ラストシーンである。まだ「おくりびと」を観ていない方々の為に詳細は避けるが、この物語においては重要な小道具として「石」が用いられる。その「石」がある所からこぼれ落ちるシーンで、本木氏の演技は冴えに冴え渡った。素晴らしい演技で、無駄な「説明」を根こそぎ省略する事に成功していた。私はそれを観ながら、「もし他の役者が主役を演じていて、このシーンが説明臭くなっていたら最悪だな」と思った。それは本木氏の素晴らしい演技の産物でもあったのだ。
また脇を固めていた所で言えば、山崎努氏と笹野高志氏が素晴らしかった。特に物語序盤においては、主役は山崎氏演じる納棺士なのではないか、と思うほどの圧倒的存在感であった。笹野氏演じる中年男性も、物語の終盤に良いアクセントを利かせていた。
私は個人的には、ラストシーンで本木氏が見せた涙、表情をほぼ変える事ないままに頬を伝い鼻を伝う「静かな涙」に背筋が震えた。いかん、今思い出しても泣きそうだ。
生と死とは。そして家族とは。そんな事を、納棺士という一風変わった職業のフィルターを通しながら、正面から静かに描いていく。実に素晴らしい映画だった。
そして、心に残る映画だった。
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コメント
『納棺夫日記』(青木新門 文春文庫)をお勧めします。就職活動で多くの葬儀会社を受け、実際に納棺の施行も体験しました。そんな中出会った本です。よろしければどうぞ^^
投稿: れいこ(府立大ジャズ研) | 2011年6月22日 (水) 23時19分
れいこちゃんへ
なかなかレアな体験してるね。今度発見したら読んでみる。
投稿: ふくしまたけし | 2011年8月23日 (火) 16時31分