オレも昔はナイフみたいに尖ってて
自宅レッスンの伴奏によくギターを用いる。
演奏する音楽の大半はジャズなので、なるべくならばフルアコギター(大きなバイオリンのようなギター)のようなもので鳴らしたいのだけれど、私はそれを持っていない。私が持っているのはフェンダー社のストラトキャスターというギターだ。このギターは、いわゆる「いかにもなエレキギター」といった風情だ。そもそものサウンドは、あまりジャズには似つかわしくはない。
私なりに工夫を凝らしたのだが、このエレキギターを、ベース用のアンプに繋ぐ。高音部を絞って中低音部を上げる。ピックアップはフロントのみ、もしくはフロント+センターを使う。ちなみに弦はかなり太いものを張っている。
こうすると、比較的フルアコギターに近いような、太くて丸い音になる。「そもそものストラトらしさ」は失われるが、ジャズには似合うサウンドになる。私はこのセッティングが気に入っていて、ずっとレッスンの伴奏ではこのギターでコードを弾いたりしていた。
それが、先日辺りから、このギターが「すわデスメタル!?」と言いたくなるような歪んだ音が鳴り始めた。擬音で表現すると、これまでが「ぽろろーん、しゃーん」という音色だったのが、「ぎゃいーん!ずぎゃーん!」という音色になってしまった。
私は直感した。「ギターがグレた」と。
「おうテメー!オレは元々ロックンローラーなんだよ!それが何だ!ベースアンプに差したりしやがって!ふざけんじゃねえ!オレはもうジミヘンサウンドしか出してやらねえ!」
そんな声が聞こえたようだった。
いや、しかし待てよ、と私は立ち止まった。確か私のギターは電池で動いていたのではなかっただろうか。まさか、その電池が消耗したが為に、このような「不良サウンド」になっているのではないだろうか。
私はコンビニへ走り、ギター用の電池を見た。コンビニに、その電池は売っていた。
しかし、値段を見て驚いた。何と驚愕の504円。国が一つ買えるほどの値段である。
私は思案した。この電池を買えば、或いは私のギターも「おグレになった」状態から、「オレもマジ昔は迷惑かけた。今はマジ親にも感謝して全てのものにリスペクト云々」という、アホ丸出しラッパーのような更正状態になってくれるやも知れない。しかし、「オレのささくれた心は電池なんかじゃ癒されねえんだ!」と、更正してくれないかも知れない。その為に504円を使うのは痛すぎる。
私は一度コンビニを出た。私はスーパーセレブなので、携帯電話なるものを持っている。年収が二兆円を超える者のみが持てるというスーパーアイテムで、これがあるとどこでも電話がかけられるのだ。
私は近所のライブハウス、「バックインタイム」に電話をかけた。実はこの店のマスターのK氏は、「ライブハウスのマスター」という顔の裏で、「凄腕ギタリスト」という顔も持っておられる。彼に聞けば、私のギターの不良化の原因もわかるであろう、と踏んだのだ。
「あ、どーもー福島ですー。Kさん、実はちょっと相談なんですけどー、ウチのストラトがぎゃいんぎゃいん歪んじゃいましてー」
「福ちゃん、そのギター、アクティブ?パッシブ?」
「???」
実はここで白状するが、私はギターの事は殆ど知らないのだ。アクティブ?パッシブ?何それ食えるの?という「お気の毒な人」なのだ。
「あ、いや、何か…電池で、電池で動くやつです…!」
何だその小学生のような受け答えは。
「あーじゃー電池が無くなってるだけだと思うよー、電池代えたら直るよー」
「はいっ!電池代えます!ありがとうございます!」
「いえいえどういたしましてー。あ、今度のライブの事でー(以下業務トーク)」
私は電話を切って、一人呟いた。
「やっぱ餅は餅屋やでしかし」
彼の言う事ならば間違いは無かろう。504円の出費は痛いが、それでギターが更正してくれるなら安いものだ。世の中金やで、と呟きながら、ドヤ顔で電池を買った。
家に帰って電池を交換してみたら、彼の言う通り、確かにギターは更正した。「いやあ、もう昔の話は勘弁して下さいよ…オレもアホでした…」と微笑みながら日本酒をちびりやる宇梶剛士よろしく、極めて爽やかな「好青年サウンド」がアンプから響き渡った。
おかげで本日のレッスンでも、我がストラトくんは絶好調。本当に見事に更正してくれた。
嬉しい。
さて、明日6月1日水曜日は上野アリエスでライブ。ハーモニカ皆川和義とのデュオ。ゲストボーカルには大塚美香。19:30スタートです。
是非ご来場を。もちろん明日はギターではなくてピアノを弾きます。
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