瑕を庇う
仕事のメールと電話を6件やっただけで随分と疲れ果てて、「ああもう今日は何もしたくない」などと言ってしまいそうになるほど暑い。
記録的な暑さだ。
しかし、何もしないでいる事を許されるほど私には余裕は無い。
譜面も書かなくてはならないし、ピアノの練習もしなくてはならない。布団も干さなくてはならないし、昨日作ったカレーを救出しなくてはならない。
カレーを救出、というのは。
昨日、寸胴鍋でカレーを作ってみた。分量がべらぼうに多くなるので、思ったよりもカレー粉が大量に必要になる事に途中で気付き、カレー粉を何回も買いに出かける、という失態はあったものの、概ね美味いカレーが出来た。その事には満足していた。
しかし、再度火を入れておこうと思い、鍋を火にかけていたら、鳥頭の私はその事をしばらく忘れてしまい、鍋を十分ほど放置してしまったのだ。
当然、カレーが焦げた。
この絶望感といったら無い。
苦労して、手塩にかけて煮込んだカレーから煙が上がっているその様子を目にした時、私の脳裏には「絶望」の二文字のみが仰々しく浮かんだ。
ただし、それはまだ修復可能なレベルであった。火事で言えば、まだ「ボヤ」の段階であったのだ。
しかし、そこには苦味が残った。まるで人生だ。甘いばかりが人生ではない。苦いこともある。辛いこともある。
今日、私は思案した。それを復活させる方法を。
思案した挙句に私が買ってきたのは、ヨーグルトである。これをどばどばとカレーに入れる。
今度は慎重に火を入れる。小さな火で、そして入念にかき混ぜながら。
すると、これが当たった。
勿論、一度ついた「焦げ」の烙印は決して落ちる事は無い。過去の過ちを決して消し去ることが出来ないように。しかし、それでもカレーは随分と「マシに」なったのだ。
我々人間が決して贖(あがな)う事の出来ない罪と共に生きているように、私が昨日作ったカレーも、「焦げ」というその瑕(きず)と生涯を共にしなくてはならない運命へと導かれた。
しかし、だからと言って生きていてはいけない訳ではない。
私はお前の瑕を庇おう。そういって現れたヨーグルト。それと共に生きていけば良いのだ。
人間には「取り返しのつかない事」など、それほどたくさんは無い。
カレーにも無い。
だから今日もカレーは生きていくのだ。
「焦げ」という瑕と共に。それを誰かに庇われながら。
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コメント
料理は、一回失敗してしまうと、中々取り戻すことが出来なくなるよね~(>_<)私も良くやります。そして泣く。そう、焦がしちまったら、どうしたって苦味は消えないのよね。苦くなると子供は食べてくれないので、責任は自分が全て負う羽目に。
投稿: クロサバ | 2010年8月23日 (月) 23時33分
クロサバさんへ
そっか、子供は苦いの嫌いだもんね。そうなんだよね、焦がしちゃうとなかなか元に戻らないんだよね。
投稿: ふくしまたけし | 2010年10月 8日 (金) 13時23分