Mさんの事
ふと思い出した昔話を一席。
小学生の頃、小学校に登校する為の「登校班」というものがあった。近所同士の子供達が、十人前後集まって学校へ行くのだ。私も近所に住む子供達と連れ立って小学校に登校していた。
その登校班の中に、Mさんという女の子がいた。大人しいけれど、目鼻立ちのはっきりした美人だった事を覚えている。小学校も高学年になる頃、Mさんの事を「かわいい!」と言う男の子達も少なくなかった。
中学校に上がって、Mさんは私と同じ中学校に上がったのかどうだったかは忘れた。中学校に上がる頃だったか、入ってすぐだったかに、Mさんはどこかに転校して行ってしまった。私の友人でMさんに想いを寄せていた連中は、揃って肩を落とした。
また想像力の豊かな中学生である。そうやって転校などで美人な女の子がいなくなると、頭の中ではその子の記憶(イメージ)はどんどん美化される。最早私達の間では、「転校していなくなったMさんこそが史上最強の美人」というのは定説になっていた。これは、普段から顔を合わせる同級生の女の子達から全く相手にされない「モテない男子」である私達の無意識かつ必死の自己肯定に他ならない。
私達の仲間は、私を含め本当に女の子には縁が無かった。やり場の無いエネルギーだけをひたすらに蓄えて、無駄に自転車で遠出をしてみたり。
女の子達と仲良くしている別の男グループに対しては、本当は羨ましくて仕方が無いのに「あいつらは軟派だ」だの「あんなブサイクな女達と仲良くして何が楽しいかね」だのと、わかりやすい負け惜しみを吐いていた。今ならば言える。本当は羨ましかった。間違いない。
さて、そんな完全無欠なまでに「モテない中学時代」を過ごした私達は、当然のように「モテない高校生」になった。それぞれに違う高校には進んだものの、家がすぐ近所に住んでいるものだから、夜な夜な近くの川原などに集まった。相変わらず「どこそこのパチンコ屋にはモーニングが入っている」だの「オレは最近タバコを吸いはじめた」などという愚にもつかない報告をし合っていたが、やはりその時となっては通う高校も違う。それぞれの高校の報告、というのも日課になっていた。
「ウチの学校の授業、マジわかんねえ」と私が言えば、「オレの高校は女だらけ」とミノルが言う。「オレの高校にはバカとヤンキーしかいねえ」とアキラが言った。
そんなある日、集まっていたメンバーの一人「ウチダ」が、我々を戦慄させる、驚愕の事実を告げた。
ウチダは、江戸川区の、とある都立高校に進んだ。その学区では上から二番目に勉強の出来る高校だった。
そのウチダが私達に告げた驚愕の事実。
「オレの高校に…Mさんが…いた…っ!」
ざわつく私達。
そう、Mさんは、私と同じ小学校の登校班にいた、「あのMさん」であった。
(続く)
あまりに長くなりそうなので、続きます。急展開の次回を心して待て!
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