テレビが欲しい
新しい家にはテレビが無い。ラジオはある。
テレビが無い生活なんて存外に普通だろうと高を括っていた訳だが、なかなかに寂しいものであると、一日で気付いた。
昼に起きて、奈美子は既に会社に行ってしまっていた為に、部屋に一人。何かメシでも食うか、と家の食材を漁る。ちゃぶ台に作り置きの弁当をセットして、インスタントの味噌汁を入れて、まあこんなもんかと食べ始める。
けれど何とは無しに寂しい。普段、一人でメシを食う時にはいつもテレビを見ていたから。
「デキる人間はテレビを見ない」という風潮が一昔前にあった。私はこの風潮が嫌いだった。
テレビ番組のくだらなさや低俗さをあげつらえ、そういった低俗文化から「決別」する事で、自分を知的階層の人間だと定義付ける。そういった一連の流れが、私にはとても知的には見えなかったのだ。それは自然体を気取る人間が、えてして不自然に見えてしまうのに似ている。テレビを見ない事でしか自らの知性を主張出来ない人間は、私には知的だとは思えない。とてもではないが。
確かに「面白い!」と唸るようなテレビ番組は少ない。ケーブルテレビにでも加入しなければ、私の好きな野球中継もそうそう見られない。
それでも、一人の時間。本を読むほどの気力も無ければ、音楽を集中して聴く事などまっぴら御免だというその時。面白くもないテレビをダラダラと見る事で、一抹の寂しさは不思議と和らいでゆく。
そんな事もあって良いだろうと私は思う。
ニュースや天気予報を見たり、クイズ番組を見たり、スポーツ中継を見たり、時には映画に涙してみたり。
まだ我が家には冷蔵庫も食器棚も無いので、テレビの購入はもう少し先だが、その内いつかテレビを買おうと思う。
奈美子とお金を出し合って。
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