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2010年2月23日 (火)

「年齢×1000円」という嘘

財布の中に入っている金額は、年齢×1000円が適切だという話をどこかで聞いた事がある。

昨日は近所に住む友人のヤマと遊んでいたのだが、夕方に落ち合って二人の所持金を合わせてみた所、何と驚愕の二千円以下。私が千円強、ヤマが千円弱の所持金。「年齢×1000円」の公式に当てはめて考えると私たちはまだ一歳かそこいら、まだ親父の膝の上でうんこを漏らしたり漏らさなかったりという事を生業とする、所謂「赤ちゃん」と呼ばれる生き物に属してしまう事となる。

もはや二人とも30歳だと言うのに…

いやしかし、財布の中に三万円も入っている事なんてほとんど無いぞ?「年齢×1000円」の公式はちょっとおかしくないか?

それはまあ良い。

「持たざる者」である私達は知恵を絞った。どうしたら今日を楽しく過ごせるだろうか、と。

まず最初に挙がった案は、「自販機巡り」であった。小岩中の自販機を巡り、釣り銭口に手を突っ込む。また、自販機の下にある不思議なスペースを細めの棒で掻き出す事で、知らず知らずの内に私達は「持たざる者」から「持っておる者」へと変貌を遂げる、そういった魅惑のプランである。

結論から先に言えば私達はその「自販機成り上がり大作戦」を実行には移さなかった。我々ほど賢明な者ともなれば容易に想像する事が出来るのだが、その作戦を実行する為にはプライド、つまり矜持を地よりも下へと落とさなくてはならない。

想像してほしい。30歳にもなる男が二人して地べたに顔を近付けて、「オイ!奥の方光ってるって!あれぜってー銀色の金だって!」などとはしゃいでいる光景を。

私がその光景の目撃者ならば、音よりも速く携帯電話を取り出した後、光よりも速く1と1と0をプッシュする。もっと分かり易く言えば、通報する。

諸々の事情を勘案し、我々はそれを実行に移さなかった。何と賢明なのか。ついつい自讃してしまう。

次にヤマが言い出した一言は、驚愕の一言であった。

曰わく、「オレの部屋に眠っている…っ!財産が…眠っている…っ!」

ざわ…ざわ…ざわ…

我々はざわついた。

その事実を思い出したヤマの顔には、いささかの狂喜の色が見て取れた。悪魔的閃き。まさに僥倖。

私は訊いた。「い…いかほど…?」

ヤマは答えた。「一山…っ!」と。

どうやら嘗てヤマが戯れにやっていた500円玉貯金、その貯金箱が部屋に残っているはずだと言うのだ。

おそらくは500円玉が四枚、計2000円は貯金箱に入っているだろうとの事であった。

2000円。現在の貨幣価値に換算すれば、凡そ国が一国買える金額である。つまり「王になれる金額」、それが2000円という金額であるのだ。

私達は逸る心を抑えつつ、ヤマの家へと向かった。

ヤマは自らの部屋へ刹那消えたかと思うと、やおら神妙な面持ちで踵を返して来た。

「これだ…持って…持って来たぞ…っ!」

ごくり。私は自らが唾を呑むその音が奇妙なほど鮮明に聞こえたのを覚えている。

ヤマが手に持つその貯金箱には、「10万円貯まる貯金箱」と書いてあった。貯まるかっつうのそんなもん、とは思いつつも、貯金箱を振ってみると、中で大粒のコインが揺れる音が聞こえる。

「入っておるのう…」

「うむ、入っておるのう…」

そんな事を呟いて、我々は貯金箱を破壊しにかかった。

文明の利器を熟知した「The近代人」でお馴染みの我々が選んだ手段は、「足で踏んで破壊」、これである。

何も足さない、何も引かない。シンプル・イズ・ザ・ベスト。そんな格言を私達は知っていたのだ。

まず手始めにヤマが踏む。

グシャァッ!という鈍い音と共に中から大判小判がザックザク…

と思いきや…

何も出て来ない。

それどころか、貯金箱は鉄塊へと化け、中に入った500円玉を強固に自らの中へ閉じ込めた。

まずい…っ!まずいぞ…っ!

私が逆方向から踏んでみる。

鉄塊は形を変えた別の鉄塊に変化しただけで、中から500円玉は微塵も姿を現さない。

そこに一筋の光明。

我々は気付いたのである。

「コレさぁ、手でこまめにギコギコ曲げて、真っ二つにしたら良くね?」と。

そう、大きくホームランを狙うのではなく、小さく持ってコツコツ当てる。野球も人生も、同じ事なのだ。

電信柱の灯りの下で、平らな鉄塊になってしまった貯金箱を手でギコギコ曲げる30歳の男を二人想像してほしい。

頼むから殺してやってくれ。

格闘する事凡そ30分。我々は予想通りの四枚の500円玉を中から取り出すことに成功した。

500円玉が四枚。計2000円。現在の貨幣価値に換算すれば、星が丸ごと一つ買える金額である。

我々はその金を持ってホクホク顔でまずはパチンコ屋に向かった。

最早負ける気がしなかった。

800円ずつ負けたが。

若干意気消沈した所で、チューハイが一杯150円の立ち呑み屋へと向かった。

テレビでクイズ番組の「Qさま」を見ながらチューハイをかっくらった。「伊集院先生は賢いよなあ」「すげえなあ」そんな事を呟きながら。

「金もなくなったし帰りますか」どちらからと言う訳でもなくそんな事を言い始めたのが夜の10時頃。

思いの外我々は一日を楽しんで過ごしていた事に気が付いた。

人間、金は無くともそれなりに楽しく過ごせる、というのがこのエピソードからの教訓である。

あと、もう一つの教訓は、「貯金箱を破壊するときは、缶切りなどの道具を使うのが確実」、これだ。

読者諸氏も肝に銘じておいてほしい。

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