途方も無く果てしない旅
音階(スケール)の勉強が面白くて仕方がない。
とは言っても所詮私は平均律の楽器の演奏者であるから、12平均律の中でのみの話なのだが。
(注:平均律とは、1オクターブ、例えばドからドまでの高さを12個に割る事。ピアノがその最たる楽器。ドからオクターブ上のドまでの鍵盤数は12個。それに対するのは自然律。コントラバスやバイオリンなどのフレットが無い楽器は自然律楽器。理論上は1オクターブを無限に分ける事が出来る)
種々の音階、それらの背後には民族的で文化的な背景が色濃く出る、と私は思う。
例えば、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドという音階は、一般的に「メジャースケール」、或いは「アイオニアンスケール」などと呼ばれるが、これは極めて西洋的な響きを持っている、と私は感じる。アングロサクソン的な響きだ。
ではそのメジャースケールの第二音(レ)、第六音(ラ)、そして第七音(シ)をそれぞれ半音下げて「ド・レ♭・ミ・ファ・ソ・ラ♭・シ♭・ド」と弾いてみたらどうだろうか。これは俗に「スパニッシュスケール」、或いは「ジューイッシュ(ユダヤ人の)スケール」と呼ばれるが、なるほどその響きは私達にスパニッシュやジューイッシュのイメージを喚起させる。これは実に面白い話である。
モンゴロイド的な音階(例えば沖縄音階)、インド的な音階というのも存在する。
先ほど軽く触れた「自然律」を使って話せば、インドには「ラーガ」と呼ばれる固有の音階もあり、これらの事からしても、音階の背後に民族的・文化的背景を見る事は決して荒唐無稽な話ではない。
数年前、ピアニストのランディ・ウェストン氏が来日した折に、氏は講演会の中で「星にはそれぞれ固有のリズムがあり、固有の音階がある」と語った。「畢竟、音楽は宇宙から常に(地球に向けて)降り注いでいる」と。氏は古代エジプト文明の下にあった学者達がそれを実際に感知して採取したデータの原型を後世に残しているという歴史的事実を用いてそれを説明した。氏の言葉には大変な説得力もあったし、その話は不思議なほどに私の「腑に落ちた」。
しかし、大変面白く興味深い話なのではあるが、まだ私は実感としてそれを感知するに至っていない。無意識に感知しているだけなのだと思わない事も無いが、やはり実感が伴わない為、その事実に対してはっきりと理解しているとは俄には言い難い。
しかし、少し規模を縮小してみて、「それぞれの民族にそれぞれ固有の(リズムは言うまでもなく)音階がある」と考えれば、その論理の延長線上に「星に固有のリズムと音階がある」というのは自然な話となってくる。人間達ごときが民族ごとにリズムと音階を持っているのだから、星が持っていない訳がなかろう、という寸法である。星の中に生命は内包されているのだから。
様々な音階やリズムを学んでいる内に、私は何か旅をしているかのような錯覚に襲われる。
世界各国の、様々な民族が暮らす様々な地域へと。音階を一つ半音ずらす度にまた違う別の地域へと。リズムを半拍ずらす度にまた次の大陸へと。
そうして遠い地の見知らぬ誰かに思いを馳せる。
音楽の学習は、途方も無く果てしない旅なのだ、と私は妙に納得するのである。
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コメント
星に固有のリズムと音階
ロマンを感じます。
惚れてしまいそうです。
(でも貴方にはなみこさんが。。。)
ところでわたしはピアニシモといえば
O石Mぶ氏の演奏が凄いと思います。
でもそんなこと言ってる場合じゃなくて
もっと練習しろ...>自分って感じです。
ともかくふくしまさんてすてきー
投稿: asami | 2010年1月16日 (土) 16時01分
星にも固有の音階か~!面白いね~!星はそれぞれ固有の波長の電磁波を地球に送っているんだろうから、それを何とか音符に変換した音楽を聞いてみたい♪そう考えると、星だけじゃなく、万物には固有の波長があるんだから、全てが音楽で表せるということ?
投稿: クロサバ | 2010年1月23日 (土) 03時12分
asamiさんへ
大石さんのピアノ、まだ生で見たこと無いんですが、見た人はみな口を揃えて「素晴らしい」と言いますね。目下、生で見たい日本人ピアニストの一人です。他は菅野邦彦さんとか。最近見た中では、「大西ユカリと新世界」のピアニスト(オルガニスト)、マンボ松本氏がカッコ良かったです。
投稿: ふくしまたけし | 2010年2月 4日 (木) 14時12分
クロサバさんへ
>万物には固有の波長があるんだから、全てが音楽で表せるということ?
その時のランディ氏の話をぼくなりに咀嚼すると、そういう事も大いにありえると思います。勿論、音階だけでなく、リズム、音色、そういったものを複合させる事で。
全てに神が宿る、というアニミズム信仰みたいなものに近いのかもしれませんね。
投稿: ふくしまたけし | 2010年2月 4日 (木) 14時16分