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2010年1月13日 (水)

秋葉先生の懺悔

夜、酔っ払いながらふらふらと歩いている時などに、たまに口ずさんでしまう歌がある。

恐らくはほとんどの人が知らない歌だ。

それはこんな歌だ。

「たーまごたまごがパチンと割れて、かわいいひよこがぴよっぴよっぴよっ」

と。

知っている人がほとんどいないのは仕方がない。それは酔狂なオジサンが勝手に作った歌なのだから。

この変てこな歌を作ったのは、私の小学校の時の担任の、秋葉先生というオジサンだった。私はこの秋葉先生という変わり者のオジサンの事がとても好きだった。酔っ払いながら「たーまごたまご」の歌を歌うと、私は今でも何とはなしに秋葉先生の事を思い出してしまうのだ。

そう遠くない最近の事であるが、ある日、我が家で文集のようなものが発見された。それは私が小学校の一年生か二年生の時に編集された、即ち当時の秋葉先生の手によって編集された文集だった。

中身はちょっと衝撃だった。

そこには、秋葉先生を糾弾するような言葉ばかりが並んでいたからだ。

事の顛末はこうだ。

どうやら私が何かの折に秋葉先生に怒られたらしい。私は普段から落ち着きのまるでない、今で言うところの注意欠陥・多動性障害を完全に具備した児童であったので、常に怒られる要素をフルに持っていた。椅子に座らない、廊下に飛び出して奇声を上げる、10秒とじっとしていられない、等々。

だが、どうやら私がいつものように怒られたその日、私にはいつものような非がなかったらしいのだ。珍しい事もあるものだ。間違っているのはいつも大体私なのだが。

つまり、秋葉先生は私を無実の罪で叱ったという事になる。間違って叱ってしまったのだ。

秋葉先生はそれを大層後悔したらしく、自らの過ちを認め、生徒全員にその事について作文を書かせた。

小学校二年生程度のクソガキが書く内容と言えば、「今日ふくしまくんがなにもわるくないのに怒られてかわいそうでした」みたいな寝て言った方が良いタイプの文言(通称:寝言)や、「今日はふくしまくんはわるくありませんでしたが、いつもふくしまくんはおちつきがないので怒られた方が良いと思います」といった「The正論」がほぼ同じような割合で散りばめられた。

本人である私は「今日秋葉先生がぼくを怒った。ぼくはわるくないのに」といった、普段の行いを1ミリも反省していないと見られる頭の悪い発言をカマしていた。子供の時からバカだったんだな。

そしてそれらの作文を集めた秋葉先生は、文集のようにしてそれを綴じ、全ての保護者達にそれを配った。

「自分は過ちを犯しましたよ」という懺悔にも似た気持ちだったのかな、と思う。

そんな作文を書いた事も忘れていたし、そんな文集があったという事も知らなかった。

ただ、二十年以上の時を経てそういうものを見た時には、「秋葉先生は難儀な生き方をしていたのだなあ」と、そう思った。

もう少し楽な生き方もある事を三十歳の私は知っている。

それを選べる人もいるし、選「ば」ない人もいるし、選「べ」ない人もいる。

誰が良くて誰が悪いという話ではない。ただ、難儀な人はいるものだ。

秋葉先生が子供達(二十年前の私達)と一緒になって「たーまごたまごがパチンと割れて」と歌っていた光景を思い出して、私は何となく笑顔になる。

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コメント

小学校時代の先生って、子供達と真正面から向き合ってくれた先生ばかりな気がするな~今から考えると、素晴らしい先生達だったな~気が強くてひねくれ者の私は、小4くらいまで、男子と殴り合いの喧嘩したり、しょっちゅうもめ事を起こして、帰りの会で男子連中にチクられて、居残りで先生に怒られてたな~。今となっては、それを含めて、良い思い出よ。

投稿: クロサバ | 2010年1月13日 (水) 01時11分

その文集探したんだけど見つからなかった。
今度見せてくれ。

投稿: ヤマ | 2010年1月13日 (水) 15時13分

クロサバさんへ
必ずしも良い先生ばかりじゃなかったですけどね、ぼくの所は。
あなたの少女時代は、そうやって聞くと何か眼に浮かぶようです。多分、お互いに自意識が強かったんでしょうな。

投稿: ふくしまたけし | 2010年1月14日 (木) 14時58分

ヤマへ
今度は長栄祭ですな。

投稿: ふくしまたけし | 2010年1月14日 (木) 15時01分

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