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2009年11月16日 (月)

MSタイムが無いなんて

免許証の更新に行って来た。

五年前の違反があと十日ばかり早ければ、今回より優良ゴールド免許だったのだが、僅差でそれも叶わず。

私の免許証は、原付と中型バイクのみ。車は乗れない。

東京は電車やバスの交通網も発達しているし、バイクに乗る機会もなくなってしまったので、今ではすっかりペーパードライバーだ。

私はそもそもそんなに運転が好きではないからもうこれで良い。

免許証の更新に行くのは、これで何回目だろうか。五回目ぐらいだろうか。いつ行っても劇的につまらない。

間違いなく「つまらなくてナンボ」という風情を湛えておる、免許更新は。

講習中、私の前に座った若い女がずっと「おぱーんーてーいー」をツーケー(ケツ)の辺りから露出していた。

ちらと見える、というレベルではない。もろっと見える、というレベルである。

最初は私も「ほうほう、ブラック、つまり黒かね、黒は女を美しく見せるのだよ」などと上機嫌で後ろの席からその黒いおぱーんーてーいーを凝視していたが、私は次第に自らが遣り場の無い怒りを覚えている事を知るに至った。

パンチラではなくパンモロ、そんなものに何の価値があるのだ!?と。

其処には全く情趣が無い。風情が無い。滋味も無い。無い無い尽くしだ。そんなものの何が良いんだ!

もう…がっかりだよ…!!

貴様、ケツをしまえ!と私は叫びそうになったが、隣にいた気の良さそうな青年が「ここはこらえてつかあさい、こらえてつかあさい」と広島弁で私を宥めたので、私は怒りを堪えた。広島カープファンで良かった。

しかし、あのもろっと露出されたおぱーんーてーいー。あれが噂に聞く「見せパン」なのだろうか。だとすれば、そんな文化は早々に廃れて頂きたい。忌むべき文化以外の何物でも無い。

チラリと見える可憐さ、儚さ、そして美しさ。それがわからない奴らは畢竟万死に値する。

世阿弥は言った。「秘すれば花」と。

隠す事に意味があるのだ。全くわかっとらん!

と、私は少々不機嫌になりながら講習を受けていた。「この国はじきに滅びてしまうかも知れん」、そんな事を考えながら。

だが、私には免許更新における楽しみが一つあった。

それは、講習も終盤にさしかかった頃に訪れるMSタイムである。

因みにここで言うMSとは「マサシ・サダ」の事を指す。

講習が残り三十分を切ろうかという頃に、教官が「それでは最後に皆さんに交通事故防止の為のビデオを観てもらいまーす」と言った辺りからMSタイムはスタートする。

MS(マサシ・サダ)の名曲である『償い』、この曲をモチーフにした「超不幸ドラマ」が始まるのだ。観ればトラウマ確実なこのドラマを観る事を、私はいつも秘かな楽しみにしていた。

物語のあらましはこうだ。

工場で働く「ゆうちゃん」、彼はいつも給料が出るとまっすぐに郵便局へ向かい、その給料の殆どを口座に入れていた。仲間はそんな彼を見て「アイツは貯金が趣味のしみったれたヤツだ」と嘲笑うばかりだった。

だが、ゆうちゃんは実は貯金をしていた訳ではなかった。彼は、送金をしていたのだ。

勤務先の工場にやって来る前、一度だけゆうちゃんは悲しい事故を起こしていた。そう、交通事故だ。

遅くまでの残業を終えたゆうちゃんは、疲れながらも車を運転しながら家路に着いていた。運転中に疲れからふっと気が緩んだ。その時に、人を、轢いて、しまったのだ。

不幸にも相手の男性は命を落とした。

被害男性の奥さんは、ゆうちゃんを罵った。「人殺し!あんたを決して許さない!」と。

ゆうちゃんはただひたすらに泣き乍ら、頭を床にこすりつける事しか出来なかった。

それからゆうちゃんは人が変わったように働きまくった。何か、自らの罪を忘れるかのように。そしてそれを償う為に。

許される筈も無い、それを知りながら、ただただ送金を続けた。

そんな事を何年も続けてきたある日、その奥さんから一通の手紙が届く。

そこにはこうあった。

「もう送金はやめて下さい」と。

手紙には以下のように続けてあった。

「あなたの字を見ると主人を思い出してつらいのです。あなたの気持ちはよくわかりました。主人はもう帰りませんが、それよりもどうかあなたの人生をもう一度生きて下さい」と。

人間は悲しい。なぜならみんな優しいからだ。それが傷つけ合ったり慰め合ったりしながら生きている。

神様、ゆうちゃんは許されたと思って良いのですか?

そう思った「私」は、止め処もなく涙が溢れて来た。

というストーリーなのだが、この話がなかなかに良いのである。トラウマと共に「交通事故は起こしちゃいけねーなー」などと思うのであるが、このMSタイムが、なかった。

大変に残念なのである。

という本日の免許証更新日記でした。

マサシを流せよ、免許センター。

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