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2009年10月 7日 (水)

秘密基地

小さな頃に、秘密基地を作って遊んだ人は少なくない筈だ。

そこにはビックリマンチョコのキラキラシールを隠したり、お気に入りの駄菓子を置いていたり。

「あー、そういうのやったよ、わかるわかる」と言ってくれる人は恐らくある一定数いる。漫画「20世紀少年」はその子供時代の秘密基地が物語の大きな鍵を握るし、映画「いけちゃんとぼく」の中でも秘密基地は重要な物語の小道具だった。

私も秘密基地は作った。それは近所のアパートの空き部屋だった時もあれば(←マイルドな住居侵入罪)、小学校のプールの下にある倉庫、通称「おばけ通り」の中だった事もある。それから、新中川の土手の一角だった事も。

今でも私は近所にあるその新中川に、よく行く。殆どは一人で行くが、たまにヤマと行く。この間はなみこを連れて行った。何をしに行く訳でもない。コンビニでビールやチューハイを買って、川を眺めながらぼんやりと呑む。一人の時は暇なのでついでにブログを更新したりもする。

実は今日は、新中川から更新している。ちなみに現在は午前0時24分だ。

いつも私が訪れる、お気に入りの新中川スポットがあった。とある橋の下なのだけれど、そこは静謐で、大変風情があった。言わば、秘密基地なのだ。

私を包む闇と、眼前の川の流れ。その組み合わせが妙に心地良いのだ。

ところが、今日そのお気に入りスポットを訪れてみると、そこは既に他の住人の住処となっていた。

屋外で暮らすのが好きな人もいれば、そうせざるをえない人もいる。それはそれで仕方の無い事なので、私はそういう人たちに対しての反感は殆ど無い。

しかし、大人になってから私が勝手に作った秘密基地に、他の人間が入り込んでしまった事は少し寂しかった。

仕方無く、私はその「元秘密基地」から30メートルほど離れた位置で、買って来たビールを呑み始めた。ツマミはやはりコンビニで買った30円のベビースターラーメンだ。まあこういう事もあるよ、と自らを慰めて、缶ビールを呑んだ。

すると、暫くするとその「元秘密基地」から何やら声が聞こえてくる。オッサンの声だ。

耳を澄ませて聴いていると、それは歌だった。

「椰子の実」という歌だった。

名も知らぬ遠き島より

流れ寄る椰子の実一つ

故郷(ふるさと)の岸を離れて

汝(なれ)はそも

波に幾月(いくつき)

そんな歌を、オッサンが「イイ声」で歌っていた。

何だか良いじゃないか。私はそう思った。

私の秘密基地は、オッサンの家になってしまった。けれど、オッサンは夜中に「イイ声」で「椰子の実」を歌うオッサンなのだ。

ひょっとしたら、オッサンも故郷を離れて、流れ着いた椰子の実なのかも知れない。

そんな事を考えていたら、私は愉快になっていた。

これからの季節は寒いからね。気をつけて暮らしてくれよ。

そんな事を思っていた。

話し掛けたかったけれど、私は意外にトゥーシャイシャイボーイなので、それは叶わなかった。

もうすぐ台風が来る。

オッサン、流されんなよ。

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コメント

おっさんは意外や意外、流されたいかもしれんで…
いやっ彼らは”生”への執着が人一倍、強いのか…
どうでも良いんだが!

投稿: win | 2009年10月 7日 (水) 01時46分

うち、小学生のころ、オッサンに基地とられた
ことある・・

友達何人かと
「・・・。」
立ち尽くしたのを思い出したわ。

投稿: オカダ | 2009年10月 7日 (水) 17時12分

winさんへ
そうですね、もはや完全に絶望しているという可能性もある。けれどやはり彼らにも我々と同様、「ビールうめえなあ」みたいな事に一喜一憂しながら生きていてもらいたいな、などと当たり前の事を思ってしまうのです。

投稿: ふくしまたけし | 2009年10月 9日 (金) 18時47分

オカダさんへ
子供は無力だね(笑)いや、まあ向こうは生活かかってるしねえ。でも実際、秘密基地がオッサンに占領された瞬間って、何とも言えずに寂しいよねえ。

投稿: ふくしまたけし | 2009年10月 9日 (金) 18時49分

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