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2009年10月19日 (月)

ドS女医と聖なる光の差す行方

数日前から、目の病気に苛まれていた。

本日、月曜日に病院へ行くつもりだったが、あまりの痛みに耐えかねて、昨日の日曜日、病院へ行った。

いや、行かされたと言う方が正しい。昨日の日曜日は、彼女の奈美子と会う約束の日であったが、私の真っ赤な目を見た奈美子は開口一番「病院に行こう」と言い出し、その場で携帯電話を駆使して、手際良く近所の眼科を幾つかリストアップした。

その内の一件、N眼科(仮称)という所へと向かう。私は余りの眼球の痛みに多少不機嫌であり、奈美子に延々と楽天イーグルスのフロント・オーナー陣の無能さを説いていた。

「ノムさんクビでブラウンて。笑わしてくれるよね。仙台でその内に暴動が起きるよ?」などと。

「黙れ・病院へ行くぞ・小僧」と冷たい声で言い放った奈美子に首根っこをがしりと掴まえられつつ私たちは病院へと向かった。

病院。それは「出来るならば行きたくない場所」である。

以前、医者になった先輩がそんな事を言っていた。「病院に来たいヤツなんて基本的には一人もおらんからなあ」と。

確かに私も憂鬱だった。煩わしい種々の検査。それから診療。私だってそもそもは病院は嫌いだ。

だが、そこのN眼科は、多少の珍しさがあった。

医者は女医。大きなマスクと眼鏡で顔を覆っているが、それなりに端正な顔立ちをしている事は想像に難くなかった。

顕微鏡のような器具で私の眼球を覗き込み、私に何やら話しかけてくる。

「あーあ、派手に腫れちゃってる、パンパンですよ」などと私に向かって呟く。

そこから簡単に病状を説明される。曰わく、角膜に傷が付き、その傷から細菌が入り込んで眼球に感染し、そういった原因から眼球が極端に腫れている、と、そういう事だった。

そしてここからが魅惑のショーの開始だった。

何と、女医は「ドS女医」であった。

そこから繰り返される女医の私への攻撃、いや、口撃。

「とりあえずは私の言うことを完全に守って下さい。治す気があるのならね?」

「は、はい…わかりました!」

「まず目薬。三種類出します。これを三種類全て二時間おきに差すこと。きちんと二時間おきにやれば、そうね、今日は六回ずつは差せるわ。いいわね、六回よ。それ以下は一切認めません」

「は、はい…頑張って…差します!」

「それから明後日、また様子を見せに来て。状態が改善されてないようならば薬を増やしたり変えたりします」

「や、あの…明後日はちょっと仕事があって…日中は来れるかどうか微妙っていうか…」

「は!?何言ってるの!?アタシはあなたの予定を聞いている訳ではないの。明後日見せに来なさいと言ってるの。来れないって何を言っている訳!?」

「いや!仕事とかないです!あっても動かします!明後日来れます!」

「ふん、当たり前じゃないの…」

といった塩梅で診察は進んでいった。随所にチラリと顔を覗かせる「ドSっぷり」に私は半ば圧倒され、そして半ば興奮しながらの診察であった。

待合室に待つ奈美子。「どうだった?」との問いかけに私は一言「ドSだった」と返す以外にほかなかった。

私に投げ掛けられた女医からの視線は氷の視線そのものであり、そこには慈悲は欠片も無かった。ただ、彼女の特筆すべきは「病を治す」という自らの本分への揺ぎ無き意志と自信であり、その遂行の為ならば鬼にでもなろうではないか、という鉄の覚悟であった。

私に出来る事といえば、それに対しての完全なる服従のみである。

女医は決して「ツンデレ」ではなく、「ツンツン」、もしくは「激ツン」であった。診察の最中に、「インリン・オブ・女医トイ」などという強烈に下らないダジャレが私の脳裏を掠めなくもなかったが、そんな事を口に出してしまえばおそらくは「帰ぇれ!帰ぇれ!ここはテメエのように病を治す事に不誠実なヤツの来る所じゃねえんだ!」という意味を内包した「お帰りはあちらです」という冷たい言葉を浴びせられる事は必至であり、私はそれに脅え、必死に口を噤んだ。ドS女医は医療のプロフェッショナルなのだ。是非今後ともその姿勢を貫き通してもらいたいものだ。

さて、その後一日経って、言われた事を忠実に守る犬のように、こまめに目薬を差し続けた結果、数日前ほどのハタから見ても明らかにヤバイ目の充血は徐々に取れてきた。痛みもほぼ無くなって来た。ドS女医は、なかなかにやりおる。流石の鉄の女、である。

病院を後にした後は、私と奈美子は埼玉へと向かった。

奈美子の持つ飛行石のペンダントが放つ聖なる光がそちらの方向を向いたからだ。

「全てを終わりにさせないといけないの」奈美子は静かに、しかし確かにそう呟いた。

私だけが知っている奈美子の秘密であるが、奈美子にはその「奈美子」という名前の他に、両親から与えられた秘密の名前があった。

ナミーコ・トエル・ウル・ラピュタ。

「トエル」は「真」、「ウル」は「王」を意味する。つまり奈美子は、ラピュタ王国の正統継承王女なのだ。

その血生臭い歴史に彩られた一族の系譜を、奈美子は終わりにしたいと考えていた。

私たちは伝説の地を目指し、東武東上線に乗車した。

車内は多数の人で雑多な様相を呈していた。

「見てよ、人がゴミのようだね」と私が言うと、奈美子は私にこう言った。

「土に根をおろし、風と共に生きよう。種と共に冬を越え、鳥と共に春を歌おう」

私が呆気にとられていると、奈美子は毅然とした口調で言い放った。

「どんなに恐ろしい武器を持っても…たくさんのかわいそうなロボットを操っても…土から離れては生きられないのよ!!」と。

「うん、ごめんね」と私は謝った。

ほどなくして電車は川越を抜け、若葉という街へと辿り着いた。道中の川越市では「川越祭」なるものが開催されており、皆一様に「バルス!バルス!滅びの呪文を唱えましょ!ア、ソレ!バルス!バルス!」と叫びながら歌い踊っていた。

と、ここまで書いた所で収集がつかなくなったのでもうやめます。

単にとある川越のカフェに野菜多目のヘルシーランチを食べに行っただけなのですが、何故ラピュタが出て来たのか、私にも皆目見当がつきません。

ただ、信じてほしい。このブログには大体において本当の事しか書いていないという事を。私は嘘を書く時以外はいつだって本当の事を書いているという事を。

リアルな奈美子さんが最近「アンタのブログをたまに見ると、アタシがとんでもないキャラ設定になっているから、マジやめて」と言って私の後頭部を鈍器のようなものでがっつんがっつんと殴打してきますので、いい加減にしないといけないと思っています。

それでは皆様、See You 来世!

追記:『ハチミツとクローバー』、全巻読破しました。最後はスンスン泣きながら、というよりは、えぐえぐ泣きながらの読破でした。何だよ、最後のあのサンドイッチ。反則だよ。

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コメント

うん、あのサンドイッチは反則だ。
俺も鼻水すすりながら読んでた。
キモかったと思う。


投稿: とりい | 2009年10月19日 (月) 17時05分

ドS女医が好みなら、西川先生大好物?あれはただの設定キャラだけどね。私が奈美子さんなら、とっくに福島くんを殺めてるね。福島くんビギナーが読んだら、書いてること信じちゃうもの。奈美子さんは猟奇的な彼女なのかと。計略にまんまとはまって、私もどこまで本当?と思うことあるよ。

投稿: クロサバ | 2009年10月20日 (火) 01時22分

とりいさんへ
前半にあった、修ちゃんがモンゴルに行く時にはぐちゃんが四葉のクローバーを探したけど無かった、という伏線エピソードがラストにぐぐっと効いてきましたね。
ぼくはその前の森田くんの一族のエピソードで既にずるずるでしたが、ラストで完全にトドメを刺されました。
竹本くんの「はぐちゃん、ぼくは君を好きになって良かった…」かなんかいうセリフ。もうね、反則ですよね。
ホント、共感するポイントは最後まで見事に一つも無かったのに、面白かった。ハチクロはすごいっすね。

投稿: ふくしまたけし | 2009年10月21日 (水) 14時54分

クロサバさんへ
や、別にドS女医は好みではないんですけど、何だか面白くて。病院に行くのが毎回少しだけ楽しみです。
このブログにおける奈美子さんに関する記述が全て真実なのか嘘なのかはここでは明言しませんが(笑)、リアルな奈美子さんは優しくて頭の良い素敵な女性です。待ち合わせの時刻には、まるで権利と義務のよに確実に遅刻してきますが、それも少しは許せます。

投稿: ふくしまたけし | 2009年10月21日 (水) 14時59分

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