落ちこぼれのプライド
昨日、タップダンサーのタカさん(川村隆英さん)と池袋のスタジオで打ち合わせを兼ねたリハーサル。いよいよ今年もTAKATONEのツアーが始まるな、というわくわくした実感と共に、今回も大量に出た宿題にいささかの不安も覚える。
譜面を書かなくてはいけないし、更にそれらをみっちりと練習しなくてはならない。
自分がピアノが下手な事に辟易とする。大して難しいことをやる訳でもないのだけれど、何回も何回も繰り返し練習をしなくてはならない。曲を大体でさらって本番、などという余裕を、1ミリたりともカマせない。ひたすらに地道に練習を重ねなくてはならない。やってもやっても、本番で間違える事だってある。何でこんなにセンスが欠片もないのだろうと、我ながら苦笑する。
少し本音を言ってしまえば、そういった事から逃げ出したい時もある。音楽をやっていて、こんなにつらいのならばもう辞めてしまいたい、そう思う事だってある。
けれども私の中の碇シンジ君的な部分が「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」と繰り返し呟くので、逃げ出す事は能わない。本当に、たくさんの人に迷惑をかけまくりながら音楽家生活を送っているが、それでも何とかしなくてはならない。
タップダンサーのタカさんこと川村隆英さん。彼は私にとって特別な存在だ。おそらく、師匠市川修が亡くなった今、私が最も尊敬し、頭の上がらない音楽家が、彼だ。
彼と初めて共演させて頂いたのは確か一昨年の事だったが、私はそのずっと前から彼の事は知っていた。京都にいた頃に、亡くなった私の師匠とタカさんとの共演を客の立場で見た事があったからだ。
その時は、まさかその数年後に私が彼のバンドでピアノを弾いている、などとは微塵も思わなかった。想像だにしていなかった。「へえ、素晴らしいタップダンサーがいるものだな、世の中は広いな」そんな印象だった。はっきり言ってしまえば、私とは関係のない、遠い世界の人だった。さすが我が師匠市川修、こんなに素晴らしいタップダンサーが共演を指名してくるのだな、すごいな、と思っていた。
そんな私が何の縁か、今は彼のバンドにいる。
数年前に彼のステージを客席で見ていた時の私と今の私と、ピアニストとして格段の進歩を遂げており別人のように上達している、などとは思わない。相も変わらずヘタクソだな、と思う。
だが、何故かは知らないが彼は私を指名してくれた。
何かを期待してくれているのかも知れない。ならば、その期待にほんの少しでも良いから応えたい。
そう、思う。強く、思う。
だから今日もヘタクソなりに練習をする。
「人生と商いはとまらない列車やから」
サイバラの漫画『ぼくんち』の中にある好きなセリフだ。
逃げ出すのは簡単だ。でも、逃げない。
尊敬する、大好きな音楽家と共にステージに立たせて頂く事を光栄に思う。彼のタップダンスを少しでも良く魅せたい。彼と、ステージの中で会話をしたい。だから練習をするのだ。
八月三十日の「かわさきタップフェスティバル」を挟んで、本番は九月。もうあまり時間が無い。遮二無二やる。
さあ、練習だ。
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コメント
明日は花火の日…仙台七夕前夜祭です。2年前の同じ日にタカさんに初めて出会いました。ライブで。☆そして…遡る事…12年。寝たきりの父と2人で病院の近くで上がる花火の大きな音を聞いてました。1ヵ月後、父は逝ってしまいましたが、毎年、我が家から見えない花火の音を聞いてます。明日もまた。
投稿: のりまき | 2009年8月 4日 (火) 22時10分
のりまきさんへ
何だか切ない昔話ですね。そうか、仙台は七夕祭、盛大にやるんですね。一度見てみたいものです。いよいよ仙台行きも近付いてきました。練習にも力が入っています。
投稿: ふくしまたけし | 2009年8月13日 (木) 15時21分