出会い
本日6月11日、広島カープは幕張は千葉マリンスタジアムで千葉ロッテマリーンズと対戦する。予てより懸念されていた天候もどうやらそこまで酷くはならない模様で、恐らく試合は決行される。
千葉マリンスタジアムは、私の家からさして遠くない。私の家は東京の中でも最も千葉寄りの位置にあるからだ。というか、色々な意味で多分三割くらいは既に千葉県だ。
なのでここは是非とも真っ赤になった外野席から参戦したかった所であるが、今私は完全に日和って(日和見主義に走って)いる。
真のカープファンならば、何も考えずに脊髄反射で千葉マリンスタジアムへゴーである。そこに疑いの余地は無い。けれど私はそうしていない。二の足を踏んで、躊躇っている。
何故か。
そこには、非常に多大なるリスクが存するからだ。
考えてもみてほしい。独りで野球の応援に行く。なかなかに寂しいものである。これが仮に私が「釣りバカ日誌」の浜崎伝助のように社交的な人物であったならば話は簡単なのだ。近くにいる同胞に気軽に話しかけ、「東出も開幕から見るとちょっと調子落ちてるよねー」などと談笑し、得点の際には軽やかにハイタッチ、『宮島さん』を大声で共に歌ってくれば良いだけの話なのだ。極めてシンプルな社交の図であるが、問題は私がToo shy shy boy だという点にある。この瞬間にも二人のルールが変わる事などありえないのだよ!
Too shy shy boy である私は、そんなに気軽に周囲に話しかける事は出来ない。独りで球場にいると、いつもの六割ほどの力でメガホンを叩いてしまうし、応援歌を歌う時にもやはり音量は六割程度に堕す。歌詞の忘れた箇所なんかは適当にハミングして誤魔化してしまう。これでは選手がヒットを打てる筈がないではないか。
「鍛えたパワーで嵐を起こせー、男の意地見せろよー、ふーふーふふんんんー」みたいな感じで。すまない!嶋重宣!最後の「この空にー」の部分をたまにど忘れしたりしている!
なお、本日私が独りで観戦した上に、万が一カープが負けたとしよう。その時の落ち込み具合たるや凄まじいものである。これが大いなるリスクなのである。
最近の私は本当に「お一人様」レベルが著しく低下している。焼肉屋に独りで行くのも躊躇われている。大好きな野球観戦も、独りだと億劫になる。
どうすれば良いのか。
私なりに解決策を考慮してみた。
「食パン」、「メガホン」、幾つかのキーワードが頭に散りばめられたので、整理しつつ考えてみたい。
基本的な解決策としては二択であり
1.一緒に応援に行く広島カープファンを見つければ良い
2.孤独に負けぬように、まずは自分が強くなれば良い
という事である。この2の選択肢は、選ばない。私は強くならないと決めたから。という事で1の選択肢である。つまりどこかで「出会わなければならない」のである。ではどう出会えば良いのか。以下にシュミレートしてみた。
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私は傘の中に閉じ篭って雨の音を聴きながら歩みを進めていた。何か鬱屈とした塊が私の中に在って、それが精神をぼんやりと混乱させていた。一定方向にしか進まない筈の「時」ですら、それは今や遡りながら私と共に在るのか?そう思ってしまうほどの混乱だった。私はどこにいるのだか、そして私が誰なのかすら、それらを断言する事に自信を持てなかった。
原因はわかっていた。明らかな客体の不足だった。私は客体を通して、主体である私をいつも見ていた。客観と主観とは分け隔てられた二つではなく、お互いがお互いを補い合いながら存在する一個であった。その客体が極端に不足した今、私は自我の存在すら不安定になる程に混乱していた。
つまる所、私は孤独であった。
脳裏で反芻する。「私は孤独だ」と。すると途端に全てが馬鹿々々しくなって苦笑が漏れる。何が「孤独」か。誰もが孤独だ、莫迦者が。
雨は降りしきる。私の傘を淡々と撃つ。不規則なそのリズムは、アフリカのポリリズム(複合リズム)を連想させる。
目の前に曲がり角がある。そこを私は間もなく曲がる。右に曲がる。一心不乱に右へと曲がる。そこを曲がると何処に行くのだろう。何が在るのだろう。何も無い。何も無くて良い。何もかも、全てが無くなれ。
私が曲がり角を曲がろうとしたその数秒前、その曲がり角の奥から何かの音が聞こえた。それは微かに、しかし確かにこう発していた。
「いっけなーい、遅刻しちゃう!」
そしてその僅か数秒後、私は明確な衝撃を自覚した。私は、女性と、曲がり角でぶつかった。
女性は、口に食パンのトーストの切れ端を咥えていたが、それは衝撃で路傍へ落ちた。
私は一瞬の事に面食らったが、すぐに体勢を整えて彼女の元へ歩み寄った。
「大丈夫ですか」私は聞いた。
「うーん・・・」彼女はまだ何が起こったか把握できないでいるようだった。
私は彼女が落とした荷物を拾い上げる。残念ながらもうトーストは諦めるしかあるまい。
彼女はぶつかった瞬間に鞄を落としていたので、中のものが地面に少々散乱した。私はそれを一つ一つ拾い上げる。
彼女の携帯電話を拾い上げた。その時。
その携帯電話のストラップは、前田智徳のマスコットであった。携帯電話の裏面には、大きく広島東洋カープのステッカーが。私はそれを見逃さなかった。
そして、鞄の中からちらりと覘くのは、カープのメガホンバットである。
私は荷物を整えて彼女に渡しながら聞いた。
「カープ、ですか」
平静を取り戻しつつあった彼女は、それに対して答えた。
「拾ってくれてありがとう。いかにも、カープよ」
私はにっこりと笑顔を返した。すると彼女は続けてこう聞いてきた。
「あなたも、カープなの?」
ゆっくりと、しかししっかりと深く頷いた。
私は自分の携帯電話をポケットから取り出し、折りたたみ式のそれを開いて彼女に見せた。待ち受け画面のそこには、前田智徳の姿があった。背番号1の姿が。
「何なら君が鳴らしてくれれば、『宮島さん』が鳴り響く」私はそう言った。
「私は『それ行けカープ』よ」彼女は言った。そして私たちはお互いに、途端に吹き出して笑った。
彼女が落ち着き直って言った。
「ねえ、今日のマリンスタジアムでのロッテ戦、独りで観に行く予定だったんだけど、良かったらあなた、一緒に行かない?」そう、訊いてきた。
私は、もう一度、深く頷いた。
(了)
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という事で、出会うならやっぱり曲がり角で口にはトーストだよな、と思い立ってこうやってシュミレートしてみた。
私ぐらい賢い人間がシュミレートすると、大体96%の高確率でそれは実現される。
実現されない時はよっぽど何かが悪かったのだろう。
何が悪いのだろうか。
全て「医者と軍隊が悪い」という事にしよう。
全て医者と軍隊が悪い。
永遠にさようなら。
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コメント
結局…行くのかしらん…行きたくても行けない人もいるのだから応援して来たらいいのに。☆なまいき言ってスイマセン。
投稿: のりまき | 2009年6月11日 (木) 15時52分
のりまきさんへ
結局行きませんでした。日記にも書きましたが、行かなくて本当に良かった。まさかあんなに負けるとは思ってもいませんでした。こんな事ってあるんですね。
投稿: ふくしまたけし | 2009年6月12日 (金) 11時42分