久しぶりに電車に乗って
電車に乗って千駄ヶ谷まで。電車に乗るのがひどく久しぶりな気がしたが、考えてみれば5月4日以来だった。たったの五日程度で懐かしさを覚えるというのも奇妙な話だ。
朝からレッスン。今日は夜までずっとレッスン。ひたすらに音楽の話をし続ける。コードの話からスケールの話。黒人達の歴史の話。インドの神々の話をする事もあれば、果ては実存主義からポスト構造主義まで。我ながら話がぽんぽん跳んでいって可笑しいが、それはある必然性に支えられているので仕方がない。全て「音楽の話」なのだ。
喋りながら自分で新たな発見をする事もあれば、これまでの自分の誤認識に気付く事もある。教える事と教わる事が、どちらなのだかわからなくなる。面白い。
総武線が両国から浅草橋に向かう時に、電車は隅田川の上を通過する。私は嘗てこの隅田川の風景を切り取って一つの楽曲を書いた事がある。タイトルは何の捻りもなく『隅田川』。向島の辺り、白髭橋と業平橋の間に桜橋という小さな橋が架かっているが、その橋の上から浅草のネオンを見た光景で、私は自分で書いた楽曲にも関わらずその曲が気に入っていて、たまに演奏する。
一週間ほど前にハーモニカ皆川和義氏とベース長谷川明弘氏とのトリオで演奏した際にもその曲を演奏して頂いたが、思っていた以上に満足のいく出来となった。ハーモニカの音色を想定して書いた楽曲ではなかったが、意外なほどにその音色にハマった。メインのメロディをハーモニカに一任して、ピアノで夜の闇と水の流れと浮かび上がる光を描く事が、愉しかった。もう少し方法を練り上げていけば、まだまだ猥雑で美しいその情景を切り取る事は可能だ。音楽というものの持つ限り無い可能性に、頭を垂れる。
そんな事をぼんやりと考えていると、電車は四ツ谷を越えて信濃町へ。また神宮球場へカープ−ヤクルト戦を観に行きたいな。
ぼんやりと電車に乗る時間。そんなものを、どうやら私は愛しているらしい。
見知らぬ人達と顔を合わせ、言葉も交わさずに別れていく。子供の泣き声が聞こえる。
目的地に着いたら、私も駅を降りて歩いていく。
西原理恵子が言うように、やはり人生と商いは止まらない列車だ。
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