裏切りの街角
女性の好みとして。
端から見れば超ビッチ!姿形から連想するキーワードはガバ何トカとか、ズベ何トカとか。けれど出汁のしっかり効いた関西風のうどんを作らせたら右に出る者はいないんだから!みたいなギャップは好きだ。現代用語で言えば「萌える」。これは間違いない。「ギャップ」は時に我々男子の心をくすぐりまくる。
しかし、ギャップがあれば何でも良いのか、と問われれば、それに対してはNoと答えざるを得ない。逆に「萎える」ギャップというのも存在するのだ。
もう一つ、飯の趣味である。
石田ゆり子(女神)然とした女性が、私が穫ってきた釣りたての新鮮極まりないアジの刺身に、おもむろに大量のマヨネーズをぐしゃぁぁぁっ!とかけ始めたらどうだろう。私は力無く頭を垂れ、「アジってそうやって食うもんじゃねえんだよ…」と呟くより外ないだろう。千年の恋が二秒で醒める。いや、ゆり子ならば醒めぬかも知れぬが。しかし、そのようなギャップは真っ平御免だ。頼むからゆり子はマヨラーでいないで欲しい。
「萎えるギャップ」。これについて本日は駄文を巡らせてみたい。
過日、新宿で酒を呑む機会があった。
新宿。
そこは私にとってはあまり馴染みの深い場所ではない。
幼い頃の私にとっては、大好きな漫画「シティハンター」の舞台である街、それが新宿であった。駅前の伝言板に「XYZ(後がない、の意)」と白いチョークで書けば、槇村香と冴羽獠に会えると信じていた。知っていたかい、香は射撃の練習でいつも明後日の方向に弾丸を撃ってしまっているが、あれは獠がサイトに細工を施していたからきちんと撃てない仕組みになっていたんだぜ。理由?聞くのかい?野暮だな。香に人殺しをさせたくないからに決まってるじゃないか。良い話だ。
アニメ版「シティハンター2」においては、エンディングシーンでTMネットワークの歌う「Still Love Her(失われた風景)」がかかるバックで、新宿の街並が映し出されていた。カッコ良かったなあ。
高校生ぐらいになると、馳星周や大沢在昌の小説の影響で、新宿は恐ろしい街なのだ、と認識するに至った。歌舞伎町のゲートをくぐれば、そこでは麻薬の売人である黒人が闊歩し、青竜刀を持った中国マフィアが何の躊躇もなく通行人を殺す。そんな事が日常茶飯事として起きるものだと思っていた。
略奪、嘘、愛憎、裏切り。
そういったキーワードの裏で、それでも「愛されたい」と願う寂しい人間たちが、寂しさゆえに牙を剥いているのだ。私は勝手に、そう想像していた。
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全然違ったけれど。
それなりの回数、新宿には行った事があるが、普通の歓楽街であり、オフィス街であり、まあ、いわゆる「都会」だ。閑静な部分と猥雑な部分が入り混じっている、普通の街だ。シティハンターにXYZを書く為の伝言板は見当たらなかったし、中国人マフィアが突然青竜刀を振り回したりもしなかった。なんて事だ。全然イメージと違う。
正直に言えば、私はあまり新宿という街は好きではない。何か嫌いになるような理由が特別にある訳ではないのだが、あまり好きになれない。波長が合わないのだろうか。
ちなみに私が東京の中で好きな街は、小岩、新小岩、錦糸町だ。次いで阿佐ヶ谷、御茶ノ水、上野。新宿、池袋、渋谷という三大都会は、思い切りランク外だ。多分私はそんなに都会を愛していない。田舎もさほど愛していない。恐らくは、ひたすらに「下町の雰囲気」を愛しているのだ。貧相で、猥雑で、胡散臭い下町を。
新宿で呑み屋に向かった。向かったのは、思い出横丁という名前の通りである。
雑多な呑み屋が跋扈するその思い出横丁。不思議と落ち着いた気持ちになる。立ち呑み屋や一杯呑み屋、もつ焼き屋に焼き鳥屋。そういった風情は、私の心の中にある「ふるさとの原風景」みたいなものと一致するからだ。
適当にその中の一軒に入る。カウンター席だけの一階から、テーブル席のある二階に通される。隣でインテリぶったオヤジが偉そうに大声で喚いていたのがいささか癪に障った。
「デリダやソシュールなんてのはね、もうダメなんだよ!」
お前、そうやって大声でアピールして、賢い自分をアピールしたいだけだろ、と思って鬱陶しかったが、敢えて無視。そういうオヤジだっていてもいいや、そう思わせるのがそういった呑み屋の良い所だ。
さて、安い肴をアテにして安い酒でも呑むかな、と店内に貼ってあるメニューを一瞥した所、私は愕然とした。そう、裏切りの瞬間、「萎えのギャップ」の瞬間だったのである。
モツ煮込み600円……
…
…
…
…
なめてんのかああああっっっっっっっ!!!!!!!!!!!
煮込みは高くても400円までしか設定してはいけないという日本国憲法で定められた法律があるのを知らねえのかあっ!
更に何!?ホッピーはあるがホッピーセットが無いだと!?
ホッピーって言うのはそんな一杯ずつ呑むような贅沢な酒じゃねえんだよ!!一回のホッピーセットで中の焼酎は二~三回おかわり、つまりホッピーセット一回で4杯乃至3杯は呑むんだよ!3杯で700円程度、一杯あたり200円強、それだけ安いからホッピー呑むんだよ!ふざけろ!何が一杯450円だ!
といささか怒り心頭の私。つまりここでいう「萎えのギャップ」とはこういう事だ。
・店構え自体はいかにも下町にありそうな大衆向けの呑み屋
・赤提灯などもぶら下げてあり、適度に油汚れなどが染み付いた壁からもそういう雰囲気は漂う
・しかしその内実は、スーパーセレブ御用達の呑み屋
・年収が5000万円以下の人間にはいささか経済的にキツイ値段設定。
小岩にこんな呑み屋があったらニキビより簡単に潰れちまうよ、と毒づいていたが、河岸を変えるのも面倒で、結局その店でそのまま呑む。出て来る食べ物はそれなりに美味かったので、それで私も機嫌を多少良くする。
幸いにして、私は年収が6兆円あるので、呑み屋の支払いは事無きを得たが、やはりあのギャップはいただけない。店の雰囲気と値段設定は、統一しておいて頂きたい。
そう思って、私は新宿の街を後にした。
XYZ
もう後が無いぜ、と呟きながら。
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