人生と商いは短く持ってコツコツあてる
池袋でのレッスンへ向かう電車内から。
ご存知の方も多いかも知れないが、私は「ピアノ弾き」としての仕事と「ピアノの先生」としての仕事、二つを両立させて細々と生活している。その生活には今のところ不満はない。もう少し収入があれば良いのにと思う事は稀にあるが、たまには釣りにも行けるし広島カープの試合も観に行ける。高級品を志向しなければ酒だって呑める。勿論色々な人に助けられている事を忘れる訳にはいかないが、ならばそれで十分ではないか、という気持ちが強い。
あまり、野心というものがない。
或いは昔は多少なりともあったのかも知れないが、それはどこかでぽっかりと失われてしまったのかも知れない。
「少しでも今よりも良い音楽をしたい」という欲求があるぐらいで、「俺はこんなもんじゃない、まだまだ上へ行くんだ」という野心とは随分無縁だ。「好きな音楽をやって、そこそこ飯が食えて、練習も出来て少しずつだけれどピアノも上手になって、うん、満足」という向上心の無さである。
精神的に向上心のないやつは馬鹿だ、と批判したのは誰だったろうか。Kだったろうか、先生だったろうか。「こころ」を読んだのは10年以上前だから、失念したけれど、つまり私は馬鹿なのかも知れぬ。
嘗て二十歳ぐらいの頃、丁度ピアノを始めたばかりの頃、学生や同世代のピアノを弾いている連中をざっと俯瞰したら、つまり自分と比肩したら、誰も彼もが私より「上手かった」し「良かった」。それは現在でもあまり変わらない。京都から東京に戻ってきて、東京で幾人ものピアニストを見たけれど、その技術の高さに閉口し、溢れ出る音楽性に感嘆させられた。相も変わらず私は大した事がないな、と苦笑する。自己憐憫や謙遜の類いではなく、比較的冷静な自己分析だ。昔はそれで少し焦っていた。焦ってはみたけれど、何も変わらなかった。
結局目の前にある課題を一つ一つクリアしていく事しか私には出来る事はなかった。
ストライドピアノ、ブギウギピアノ、モダンジャズピアノ。
幾つもの課題が目の前に立ちはだかり、半ば途方に暮れそうにはなるが、一つずつ丁寧に、繰り返し繰り返し同じ事を淡々と続けていく。「あー!もう!弾けねえよ!何だよこれ!」と癇癪を起こしそうになる事など日常茶飯事であるが、それでも淡々と練習を続けるしかなかった。そんな事をぼんやりと続けていたら、いつの間にかピアノを弾く事が仕事になっていた。すごく幸運だ。
今年一番の大仕事が明日から始まる。タップダンスの鬼才、川村隆英(TAKA)氏と素晴らしいベーシスト、イチタカタ氏とによる「TAKA TONE LIVE TOUR Tribute to Jimmy」、明日が初日なのだ。すごく愉しみにしていたのだけれど、前日の今日はまだ不安の方が大きい。
焦っても仕方がない。
繰り返し自分に言い聞かせる。
レッスンの合間にしっかりと練習をして。
出来る事も、やるべき事も、単純で地味な事ばかりなのだ。
さあ、頑張ろうかな。
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コメント
今日は9.11だけど何年前かは覚えてないと言う薄情者☆…さて、Takaさんは優しそうだから緊張しなくて大丈夫なのでは…なあんて、そんな問題では無いですよね。でも若い人達が頑張ってるのはそれだけで嬉しい美しい事です。こないだ、東京方面に行き2泊しましたが暑さが尋常では無く…同じ日本なのに信じられなかった。気をつけて行ってらっしゃいませ☆最近、星が綺麗なんですよね~
投稿: のりまき | 2008年9月11日 (木) 12時52分
のりまきさんへ
もうすっかり東京も涼しくなってきました。夏が終わって秋が始まると、やっと良い季節がやってきた!と思う一方で、ちょっと寂しかったりもします。高知で見た星がすごく綺麗でした。
投稿: ふくしまたけし | 2008年9月30日 (火) 00時06分