タバコと暴君
冒頭のピンクのタバコについては、後に触れる。お読みの方々は、あまりにも女性的なそのフォルムのみをまずは印象に留めておいて頂きたい。
過日、新年会へ出席した。睦月も過ぎ、如月の中で東京にも雪が舞い降りる季節である。正月気分もとうに消え失せたこの昨今の中、「明けましておめでとうございます、今年も宜しくお願いしまーす!」の挨拶と共に盃を鳴らすのはなかなかに愉快である。私には季節外れなものや場違いなものに不思議と心ひかれる傾向があるのだ。暑中見舞いが返って来たのは秋だった、とかまやつひろしが歌った文句に、私は妙な「粋」を感じていた。
季節外れな2月の新年会は、私が働かせて頂いている音楽学校の新年会であった。集まった人々は、楽器やジャンルは多岐に渡れど、皆それぞれに音楽を生業にする方々である。私も末席に加えて頂きながら、先輩音楽家の方々の噺に耳を傾けた。そこには私にとって正しく糧となりうる至言が散りばめられていたが、そういった恩恵を恰かも無視するかの如く、私はいつものように酒の酔いに任せて下半身周辺のヘドロトークを繰り広げた。後悔はしない。自らに言い聞かせるのだ。後悔はしない!
その場自体は極めて愉しいものであった。しかし、一つだけ困った事があった。
そこには、「暴君」が存在したのである。
嘗て私が柔道を志していた時にも、暴君はいた。柔道部と暴君というのは概ねセットで考えねばならないものである。暴君は、無茶ぶりをする。そして、好きか嫌いかで言えば、私は無茶ぶりをされるのは好きなのだ。
私の心の中にあるダチョウ倶楽部的な部分がざわつく。「無理ですって!絶対無理!」と言いながら、無茶ぶりに果敢に臨みたくなるメンタリティが私には備わっているらしいのだ。
過日の暴君の無茶ぶりは、「オマエ、タバコの銘柄を代えろ」というものであった。勿論、冒頭に掲げたピンクのタバコに。
彼は、最近禁煙を始めたらしい。「オレはタバコをやめている。オマエには禁煙は強制しない。だが、辱しめとしてこのピーチの香りのするタバコを吸いなさい」という事だ。
異議あり!と私の心の中で学生運動家達がシュプレヒコールを上げる。
しかし暴君は理路整然と私の禁煙欲を指摘しつつ、私の持っていたロングピースを取り上げ、居酒屋の店員に「あ、これ捨てといて下さーい」と悪魔の言辞を吐く。待ってー!!その光景は私の脳裏でスローモーションで描かれ、BGMには中島みゆきの「世情」が流れた。
シュプレヒコールの波、通り過ぎていく、変わらない夢を流れに求めて
という事でした。しばらくは口臭がピーチの香りになる私である。私とキスがしたい女子は、私に向かって「お願い!ピーチの香りを私にも!」と泪ながらに懇願すれば、考えてやらない事もない。
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