虚構が現実を超える日
小説家が殺人のシーンを描く時に、その小説家に人を殺めた経験がなければ真に迫るシーンは描けないのだろうか。
私は違う、と思っている。
虚構を紡ぐ中で真実の欠片を見せていくのが小説家ではないだろうか。勿論、経験が虚構構築の為に有益に働くケースは往々にしてあるだろうが、必ずしもそれは必須ではない。どんな鳥も想像力より高く飛ぶ事は出来ない、と言ったのは寺山修司だが、経験に頼って書いている内は小説家は凡庸なのか、と辛辣に考えてしまう。我々読み手はどこまでも傲慢なのだ。
傲慢ついでに言えば、読み手にも想像力は必要であるのだ。書き手や登場人物に同化する必要がある、とは思わないが、一つの文脈の中で表層化された言葉だけにとどまらず、その中で削ぎ落とされた言葉、またそれによって纏われた空気を感じる事、それは確かに小説を読む一つの醍醐味であるかのように私には感じられる。想像する事と感じる事は、とても似ているのではないだろうか。
いくらか前の事だが、知人から「何か最近面白い本はないか」と尋ねられた。私が紹介したのは、石田ゆうすけ氏の著作『行かずに死ねるか!』である。
最近、幻冬舎文庫から文庫化された彼の処女作である。とは言え、文庫化にあたり、ほぼ全面的に加筆修正を加えた、というのは作者の弁。先日筆者に会った時に、「文庫のやつもう読んでくれた?」と聞かれて、「いや、まだ読んでないんですよね」と言うと、「じゃああげる」と言ってプレゼントしていただいた。ついでにサインもしてもらった。お互いに苦笑いしながら。
私のブログを日頃読んで頂いている方の中には気付く方もいらっしゃるかも知れないが、私と彼は友人同士である。2001年の9.11テロの時期に、パキスタンで知り合った。彼はこれまでに数度、自身のブログの中で私の音楽の事について書いてくれた事がある。私も数度彼の著作についてこのブログ内に書いた事がある。要するに、身贔屓も甚だしいのだが、友人同士が互いを持ち上げあって遊んでいるのだ。気持ちが悪いと思った方は、今すぐブラウザの「戻る」をクリックする事をお勧めする。いやいや、今日は大丈夫、下ネタではないからこのまま読み進めていただいても差し支えないはずだ。
さて、私は先ほど書いたように、著者からこの文庫本をプレゼントしていただいたので、つまり本書を無料で手に入れてしまった恰好になる。商業作家(この呼び方が適切かどうかはわからないのだが)の著作を無料で手に入れるのは、なかなかに心苦しい。だがプレゼントは嬉しい。しかもサインも入っているし。仕方ない、と思った私は、自らの金でこの文庫本をもう一冊購入し、私に「何か本を薦めてくれ」と言った友人にプレゼントする事にしたのだ。
「知り合いが書いた本なんだけれど、とても面白いから、あげる」と。
その時、私が本をプレゼントした友人は「ふーん」という感じであまり興味を惹かれていなかったように見えた。それはそうだろう。あまり海外旅行などに興味のありそうな人ではなかったから。
その友人から、『行かずに死ねるか!』読後の感想が私のもとへメールでやってきた。
私がプレゼントしてから数ヶ月が経っていたのだが。
そこにはこうあった。
「多分、自分で旅をするよりも、これを読んでいる方が面白い」と。
私はいささかの嫉妬すら覚えた。何たる賛辞か。
彼の著作を読んで、「自分も旅に出たくなった」という感想をよく耳にする。それはそれで大した賛辞である、と思うのだが、私は嫉妬は覚えない。嫉妬を感じたのは、「彼が構築した虚構が現実を超えた」という点にある。想像力の、飛翔である。
無論、この著作は基本的にはノンフィクションである。彼の7年間に渡る旅行を綴った「記録」が原作としてあるからだ。しかし、それを作者がいかにして「物語」へ昇華させたのか、という事を考えれば、そこには力強い虚構があるのだ。そしてその虚構が現実を超えた。私は、このメールを直接筆者に転送しようかとも思ったが、私の感じた嫉妬も含めて彼に伝えたかった為に、このブログにて書き記す事にした。彼も時折このブログを覗いているらしいので。
ねえ、すごい賛辞じゃないですか。
彼をあまりに持ち上げすぎるのは、先に書いたようにあまりに気持ち悪いので、最後に少し彼を貶めて終わる。
実は、彼には乳首が4つある。
しょうもないな。
気になった方は、是非彼の著作を読んでみましょう。
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コメント
え??
ゆうすけさん乳首4つあるの??
すげーな!!(感動)
先月ゆうすけさんが秋田の小学校に講演に来てくださった時2日連日(1日は仕事さぼって…)で行って来ましたよ!!
う~ん、感動しました!
自分の視野が広がったような気分になったよ~!
次回ゆうすけさんの講演を聞きに行った時は
胸ばっか見てるかも…。
できれば、乳首…見てみたい…。
投稿: りん | 2007年12月18日 (火) 13時15分
りんさんへ
このブログに書いてある事の9割は嘘しか書いていないので、あまり信じないようにしましょうね。
ちなみに真実は、彼はケツが二つに割れ、あまつさえその中心に穴が穿たれている、という奇病に襲われています。
ゆうすけさん、ごめんなさい。
投稿: ふくしまたけし | 2007年12月26日 (水) 15時10分
おっと、騙された…。
んでも、
次回講演会に行ったときは
おしりと胸を見るだろう…。
…ニヤニヤしながら…。
投稿: りん | 2007年12月27日 (木) 13時27分
りんさんへ
先日、久しぶりに彼(ゆうすけさんね)に会いましたが、ぼくも随分と痛いシーンを見られ、彼に弱みを握られてしまいました。もう適当な事は書かないようにします。反撃が恐いので。
投稿: ふくしまたけし | 2008年1月 8日 (火) 17時03分