狂気の沙汰ほど面白い
退路を断ち、脇道にも目をくれず、一つの道にひたすらに進む人間に私たちはどこかで強く憧れる。そういった人間を目の前にした時には、死ぬ覚悟すら定まらぬ自らを恥じる事さえある。眼前にいるその人間は、覚悟を負った人間である。比して自分は「あわよくば」という精神のもとに、二兎をも追えば逃げもする。とても自分が狡賢い人間に見えてくるのだ。
或いは私のような狡賢い思考の人間の方が「まとも」なのかも知れない。しかし、その「まともさ」は、私を苛む。
嘗て赤木しげる大先生(故人・享年53歳)はこう言った。いささか長くなるが、彼の名言を以下に抜粋する。
さあ・・・漕ぎ出そう・・・いわゆる「まとも」から放たれた人生に・・・!
無論・・・気持ちは分かる・・・!
誰だって成功したい・・・!
分かりやすい意味での成功・・・ 世間的な成功・・・!
金や 地位や 名声・・・ 権力 称賛・・・・・・
そういうものに憧れる・・・ 欲する・・・!
けどよ・・・
ちょっと顧みれば分かる・・・!
それは「人生そのもの」じゃない・・・!
そういうものは全部・・・ 飾り・・・!
人生の飾りに過ぎない・・・!
ただ・・・ やる事・・・
その熱・・・ 行為そのものが・・・ 生きるって言うこと・・・!
実ってヤツだ・・・!
分かるか・・・?成功を目指すな・・・と言ってるんじゃない・・・!
その成否に囚われ・・・ 思い煩い・・・
止まってしまうこと・・・ 熱を失ってしまうこと・・・
これがまずい・・・! こっちの方が問題だ・・・!
いいじゃないか・・・ 三流で・・・!
熱い三流なら 上等よ・・・!
まるで構わない・・・! 構わない話だ・・・!
だから・・・ 恐れるなっ・・・!
繰り返す・・・! 失敗を恐れるなっ・・・!
以上、赤木しげる大先生の名言である。この言葉を目にする度に、私の胸の奥で何か熱いものがこみ上げてくるのがわかる。そしてその熱いものとは、現実に生きる私と「そうありたい私」との間に生まれた齟齬の証でもある。赤木しげるに、私はなれないのだ。
正直に言おう。
私は随分、ユルい。
音楽を生活の糧として生きているが、いつか私には一切の仕事がなくなるのではないか、という被害妄想に苛まれた時、私は第二の職業を時折考える。
とは言え、最早私に音楽以外にやりたい事などさほどない事を考えると、自然とその夢想は「無為こそ美徳」という価値観の元に行われる。
つげ義春の作品に「無能の人」というものがある。多摩川の川原で石を拾い、それを売る助川という男の話だ。私はこの男、助川のようにいずれ生きるのだろうか、と。
私には特殊な技能など何もない。普通自動車免許すら持たない、ただ歳を重ねただけの男に何が出来るだろうか。
行き着いた結論は、「昆布拾い」である。
北海道の羅臼、或いは十勝、日高。この地域では、浜に昆布が打ち上げられると聞く。その昆布をただ拾い、干すというのだ。海に潜る必要も無い。昆布は、海から勝手にやってくる。潮の流れに乗って。
私はいつか昆布を干すのだろうか。いかんせん労働の嫌いな私であるから、熱心には拾わないだろう。気が向いたときにちまちまと拾い、ちまちまと干す。近所に住む熟練の昆布拾い職人である老婆に低姿勢に教えを請い、脇からそっと昆布を頂く。考えている事は、まさしく屑である。そうして私は、ただ、死ぬのを待つ。全ての事から目を背けながら。
赤木しげる、私もあなたのように、ただ生を全うしたい。
私は、まだ、昆布を拾いたくは、無い。
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コメント
前の文章といい、この文章といいすごく共感します。
偏見についてや、生きることについて、それは真理だと思います。そう信じたいです。みんな偽って生きてます。現実からは目を背けても、真実には忠実に生きたいです。みんな嘘ばっかで生きてます。
投稿: あっき | 2007年12月20日 (木) 05時09分
こんな公で昆布拾いを広めないでください!!
人気が出てあたしの職業がなくなっちゃう。笑
せつじつです
投稿: island over that river | 2007年12月20日 (木) 16時12分
あっきへ
そんな所に共感しなくてよろしい。一番共感してほしかったのは、前回ならば「電車内で文庫本を読む女の子に萌える」という事と、今回ならば「昆布拾いは楽そう」という点のみだ。
あまり有益な情報や思想をこんな下ネタ満載ブログに求めぬように。
あ、この間の高槻、ありがとな。
投稿: ふくしまたけし | 2007年12月26日 (水) 15時13分
island over that riverへ
名前が長い上に意味不明だぞ。
大丈夫、昆布拾いは広めたところで、誰もそんな酔狂な真似はしないから。
だってつげ義春が石拾いのこと書いたって、誰も真似しなかったじゃんか。
投稿: ふくしまたけし | 2007年12月26日 (水) 15時15分