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2007年12月10日 (月)

コンプレックスとムヒ

何がしかのコンプレックスをも抱えずに生きている人間などいないであろう、と私は考えている。一切の自己肯定に走ってしまう人を稀に見かけるが、それは逆説的にあまりにも強烈な羞恥の裏返しなのだ、と私は感じる。コンプレックスが激しい自己愛の裏返しであるように。

羞恥心と自己愛は表裏一体である。

自己実現欲求、或いはアイデンティティの確立に至るその過程。

「自分はこうありたい、あらねばならない」といったある種滑稽な呪縛の中で、客体を通した自己認識と主体である自己を通した自己認識との間に生じる齟齬。それこそがコンプレックスの正体なのかも知れない。

かく言う私も、やはりコンプレックスなるものを抱えつつ、魑魅魍魎が跋扈するこの浮世を渡り歩いている。

嘗て私は肉体を激しく鍛えた時期があった。それは大体私が中学生から高校生ぐらいの時期であった。昼休みには学校に置いてあったベンチプレスの器械で100kg近いバーベルを持ち上げ、ほどよく汗をかいた後にプロテインを飲む。銭湯で風呂上りのフルーツ牛乳を腰に手を当てながら爽やかに飲み干す快男児のように、私は満足げにプロテインを飲んでいた。また、新中川の川べりをよく走りこんだ。約10km近い距離のランニング、そして200mのダッシュを10本前後。そうして自らの躯を半ば自虐的とも言える程に痛めつけたその先に、私は強固な躯を夢想していた。それこそが、まさしく強烈なコンプレックスの裏返しであった事は、三島由紀夫の例を出すまでもなく明らかである。私は、ボディビルなぞに精を出した三島由紀夫の気持ちが痛いほどよくわかる。かと言って私は三島は好きではないのだが。

もう一つ、私が若い頃から抱えていたコンプレックスの一つに、脂性、というものがあった。どちらかと言えば新陳代謝は活発な方だったので、余分な皮脂はすぐに皮膚の表層へと追いやられた。すぐに顔にニキビが出来た。何だか全体的に顔が汚らしいのが嫌だった。さほど深く思い悩んだ問題ではないのだけれど。

そのコンプレックスは、加齢により解消された。つまり、体質が変化してしまったのだ。

私は現在、驚くほどの乾燥肌である。先日、酒の席で先輩の音楽家の方と話をしている時に、乾燥肌の話になった。その方、ここでは仮にAさんとしておこう。実名を出すのは憚られる。

私「最近、体中痒いんですよねー、冬だから肌が乾燥してるんですかねー。」

Aさん「福ちゃん、それは恐らく加齢による乾燥肌なんじゃないか?」

私「えっ?歳とってくると肌って乾燥してくるもんなんですか?」

Aさん「あたりまえじゃんか、オレだってむちゃくちゃ痒いもん」

私「確かに、潤いはゼロです!乾燥してます!」

Aさん「あーあ、もうしっかりオッサンの仲間入りだなー」

という何気ないやり取り。

しかし、私はこの加齢による乾燥肌において、一つ重大な問題を抱えている事を自覚していた。

それは、繊細な部分、横文字で言うとデリケートゾーン、直截的な言い方をすれば股間周辺がたまらなく痒い、という事である。

主に痒いのは、臍下から核心に至るまでの部分、つまり下腹周辺。そしてふぐり(或いはタマーキン)の裏の部位である。出来れば、人目を憚らずに掻き毟りたいほどに痒い瞬間が日に数度訪れるのだが、部位が部位なだけに人前ではあまり掻き毟れないのである。

想像してみていただきたい。

私が日頃のジェントルマンな口調で「いやあ、昨日我が家のワイフがミートパイを焼いてくれてねえ」などと和やかに談笑している時に(ちなみに私は独身なのだけれど)、片手にワイングラスを持ち、そしてもう片手では股間をボリボリと掻き毟っているその光景を。

「昨日、うちで飼っているゴールデンレトリバーのジョンが夜中に私の元にやって来てねえ」と言いながら(ちなみに我が家には拾ってきた雑種の猫が一匹いるだけだが)、やおらズボンの中に左手を突っ込んだかと思いきや、その場に居合わせた全ての人間が戦慄するほどの大きな音を立てながら股間を掻き毟り、そして恍惚の表情を浮かべる私の姿を。

まるっきり基地の外の人ではないか。もう少しマイルドに言えば、完全なキチガイではないか。

流石に人前で股間は掻き毟れない。しかし、痒い。

このジレンマ、さながら私は現代のハムレットである。

深遠な哲学者のように思いを巡らせ、諸葛亮孔明のごとく知略駆け巡らせた結果、私が至った解決策は、以下のものであった。

「ムヒを塗ってみる」






この解決策は、諸刃の剣であった、とだけ言っておこう。

痒みは解決する。しかし、それ以外の問題もまた浮上する。

本日、私が諸兄にお送りする一つの格言である。


「ムヒは、無茶苦茶きく」

以上である。

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コメント

私は顔が痒い…。これも加齢のせい??
ムヒって顔に塗ってもいいのかな??
…ってか、
タマーキン痒いって…病……。
…えへへ。
女の子だからよくわかんないわ。

投稿: りん | 2007年12月11日 (火) 10時56分

りんさんへ
病気じゃなーい!!
タマーキンが痒いのではなく、タマーキンの裏側が痒いのです。カンタマがきゆいのです。こなさん、みんばんは。

男と女の間には、深くて暗い川がありますなあ。

投稿: ふくしまたけし | 2007年12月12日 (水) 15時01分

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