傾奇者(かぶきもの)ギャグ
年配の人がよく言う、「間違って覚えた流行りのギャグ」というものを研究してもう5年になる。
最近では、「どんだけ~」と言いたかったのだろうが、「どれほど~」と間違えながら自信満々の表情を浮かべるサラリーマン鈴木さん(50歳仮名)を電車の中で目撃した。鈴木さんは言い終わった後は必ず自分から笑う。部下もそれに合わせて満面の愛想笑いを浮かべる。正しいサラリーマンのヒエラルキー的上下関係を一瞬にして理解することができるのだ。
お笑いコンビ「サバンナ」の高橋が扮する「犬井ヒロシ」というキャラの決めフレーズに「自由だー!」というものがあるが、それを真似したくて「自由なのだー!」と赤塚不二雄風にアレンジしてしまったバージョンも耳にしたことがある。
我が家の母親は、小島よしおの「そんなの関係ねえ!」を言いたかったのだろうが、「それは関係ない!」というフレーズに微妙に変化しており、その際の振り付けは無茶苦茶だった。
これらの例から導かれる教訓というものが確固としてある。我々はそれを学ぶべきだ。
その教訓とは「彼らにその間違いを指摘してはならない」という一点である。
さりげなく教えようとしても、その気遣いは水泡に帰す。
具体的には以下のようなやり取りになる。
サンプルケースとして、先に例に挙げた鈴木さん(50歳仮名)と部下の加藤くん(25歳仮名)に登場願う。
鈴木(以下S)「先日ねえ、部長と行ったんだよ、ゴルフ。」
加藤(以下K)「へえ、どうだったんですか?課長、勝ったんですか?」
S「ロンモチだよ、キミィ。私のゴルフ歴と言えば平安時代からかれこれ1200年にものぼるんだよ!?なんちゃって。」
K「は、はあ・・・ですよね!課長はゴルフお上手だって、色んな方から伺いますから・・・あ、あの!私がゴルフを始めた際には是非ご指導ください!」
S「仕方ないなあ、ま、私の指導を受ければ、キミもメキメキ上達するよ。自分でもきっと驚くんじゃないかな。どれほど~?ってね。なんちゃって。」
K「あ・・・そうですね・・・楽しみにしておきます・・・わ、私もきっと驚くんでしょうね、どんだけ~?って・・・」
S「そうだよキミィ、どれほど~!ってなるよ、どれほど~!って!私にゴルフを教わらない人は、決して上手にはなりませんから!無念!」
K「ですね・・・残念!・・・ですね・・・」
S「ガッハッハ、無念!切腹ぅ~!」
さて、この時にKの頭に去来しているのは、「課長、テメ、ギャグが全部微妙にちげえよ!しかも波田陽区は今は使うのは避けるだろ!?その内アレか?何でだろ~、も歌いだすのか?いや、この課長が何でだろ~、と正確に覚えている可能性は谷亮子がファッションモデルに転身する可能性よりも低いハズ!ならば、何でかな~、ぐらいで歌い始めるのか!?」といった修羅のごとき怒りの想念である。下唇を噛み締めて、最早血も流れ出さんばかりの勢いに相違あるまい。
しかし、ここで怒りを覚えるKは、まだまだ人間として徳が低い。私ぐらい徳の高い人間になれば、それは「新しい笑いの1ジャンル」として捉える事が出来るのだ。
その間違え方、そしてその新ジャンルギャグを飛ばした時の周囲の空気の凍りつき方、これは至高の一品である、と考えて良い。穏やかに周囲がその間違いに気付き修正を試みようとしても、言った本人は「がっはっは」と一笑に付す。そこには「男」ではなく「漢」がいる。前田慶次ばりの傾奇(かぶき)ぶりだ。益荒男、ここにありである。
一見パワープレイに見えるこの笑いを、私も緻密な計算のもとに今後は学んでゆかねばならぬ、という使命感に駆られている。
七年の病なければ
三年の藻草も用いず
雲無心にしてくぎを出るもまたをかし
詩歌に心無ければ月下も苦にならず
寝たき時は昼も寝
起きたき時は夜も起きる
九品蓮台に至らんと思う欲心なければ
八幡地獄におつべき罪もなし
生きるだけ生きたらば
死ぬでもあらうかと思ふ
(前田慶次)
さあ、傾いて候。
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コメント
傾奇者には 真剣に間違っている、かつ人の話をあまり聞かない 真性天然傾奇属と 突っ込んて欲しい一心でわざと間違う寂しがり屋傾奇属と二種に分類できると思います。教授。
投稿: ま○子 | 2007年12月 7日 (金) 21時18分
ちょうどミクシ本紹介で、慶次郎の言葉を捜してたところでした。
抜粋させてもらいました。ありがとう。
投稿: あー | 2007年12月 8日 (土) 03時09分
○ん子さんへ
今回の研究報告においては、前者、真性天然傾奇を中心にお届けいたしました。ちなみに彼らの学名は「ガハハ族」と言います。
投稿: ふくしまたけし | 2007年12月10日 (月) 14時17分
あーさんへ
慶次郎は、無理やり登場させたのですが、お役に立ったみたいで良かったです。これからも、決して人の役に立たないブログを書き続けていきたいと思います。
投稿: ふくしまたけし | 2007年12月10日 (月) 14時19分