ピアニストだからといって手先が器用な訳では決してない
最近、時折手が震える。
酒、だろうか。
そのせいかどうかはわからないが、過日、友人Yの頭を、謝罪会見時の亀田兄弟も驚愕するであろうほどの、見事な坊主頭に刈り上げてしまった。
事の顛末は以下。
酒を呑んで随分と酔っ払った私の携帯が、突如鳴った。友人Yからだった。
Yは、仕事上で厄介な事があった、と言う。責任問題云々で言えば、Y自身にはさしたる過失もない、との事。しかし、過失がないから頭を下げる必要はない、という正論が常に通用する訳ではなく、Yは「オレが頭を下げれば全て丸く収まる」という趣旨の事を私に伝えた。そして彼は「頭を下げる上で、その下げる頭を丸めておきたい」と私に言うのだ。そして、「ふくしま、お前、バリカン持ってないか?」と尋ねてきた。
私は、バリカンを持っていた。
そして再度言うが、極めて酩酊していた。
Yの話に戻ろう。彼が言うには、その剃髪は「禊ぎ」としての意味合いを持つ一種のポーズである、との事だった。そこまでして頭を下げれば、さすがにそれ以上は何も言われないであろう、と。ポーズであるからには、さほど気合の入った坊主頭は必要ない。Yは「12ミリな!12ミリ!」と私に強く念を押した。
もう一度言う。私は、酩酊していた。
Yと落ち合ってから、剃髪の場が決まらず暫らく難儀したが、結局私の実家で執り行う事で双方の意見が一致し、私の実家の洗面所にYは座った。
私はバリカンを構えた。酩酊しながら。
バリカンというものには、髪の毛の長さを調節する為のアタッチメントというものが付いている。そのアタッチメントを、Yの希望通り12ミリに設定した。
Yの頭にバリカンを入れる。その刹那、私の手に伝わる確かな違和感。
うむ。剃り過ぎた。
Yの後頭部に十円ハゲのようなものが出来上がる。
まずい。
結局この長さに合わせるしかないではないか。
アタッチメントを外さずにそのまま剃り続ける。見事なトラ刈りが出来上がる。
Yは最早呆れ顔である。いや、泣き顔であったか。
ちなみに私は酩酊していたので、ゲラゲラ笑いながら剃り続けた。悪魔の所業である。
一番短かな部位に合わせて剃るしか、他に手段の無い事をお互いに悟り、Yの了承を得て私はバリカンのアタッチメント部を外した。つまり、剥き出し状態の刃を持ったバリカンがそこで出来上がった。
再度スイッチを入れる。
ウーン、という唸り声を上げるバリカンを一瞥してYは、「さっきまでと音が違え・・・お前、この音はちょっとアグレッシヴ過ぎるだろ!」と悲鳴にも似た叫びを上げる。私はへらへらと笑みを浮かべながら、うわごとのように「大丈夫大丈夫」とくり返す。何が大丈夫なものか。
結果出来上がった彼の頭を、私たちは一言で「仏門」と称した。
12ミリの予定は、1ミリという結果に帰した。
何とも苦々しい顔をして、私たちはビールを啜った。
Yよ、この場を借りて一言謝っておこう。
すまんかった。
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コメント
仏門ヘアー良いっすね(笑)
さぞ
Yさんも喜んだことで(笑)
アグレッシヴ過ぎる音を聞いてみたい(笑)
笑笑笑…。
投稿: りん | 2007年11月15日 (木) 18時53分
りんさんへ
コメント返すの遅くなりました。最近パソコンからちょっと疎遠で・・・
いや、あのバリカンの音はすごかったですよ。聞かせてあげたいものです。
投稿: ふくしまたけし | 2007年11月22日 (木) 23時02分