ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、そしてそれに肩を並べる私
家に、10年以上昔に買ったエレクトリックギターが眠っていることを思い出した。
フェンダーUSAのストラトキャスター、それなりに良いギターなのである。少なくとも、アンプとセットで19,800円、みたいな廉価品ではない。私の記憶では、高校生であった私が夏休みにほぼ毎日引っ越し屋で肉体労働をした挙句に買った一品である。
当時、私はとても下手だったのだがギターを弾いていた。私のギター歴は、下手な割には存外に長い。
小学校4年生だか5年生だかの頃に、家にあった親父のクラシックギターを弾いたのが一番初めである。初めて練習した曲は、「禁じられた遊び」と中島みゆきの「夜風の中から」。我ながら、なかなか小学生にしてはシュールなチョイスである。
♪浮気でやくざな女が今夜どこでどうしていようと知ったことじゃないが~
と歌う小学生を想像してみていただきたい。私ならば、光よりも速く、彼を殴る。眉間に的確に拳をヒットさせたい。
ちなみにその二曲が弾けるようになった後にチャレンジしたのは、やはり中島みゆきの「わかれうた」である。確か、その時はもう小学校6年生ぐらいになっていたとは思うが、
♪道に倒れて誰かの名を呼び続けた事はありますか 人事に言うほど黄昏は優しい人好しじゃありません~
と歌う小学校6年生は、私が見たならば、エメリヤーエンコ・ヒョードルよりも力強くテンプルにロシアン・フックをお見舞いしたい。どうやら、もうその時期には既に私の人生は「正しい方向」を向いていなかったらしい。ならば、今、貧窮し喘いでいるのは、何もここ数年の間違いではないのだ。仕方あるまい。人間には「正しい人間」と「間違った人間」がいるらしい。石田ゆり子をネタに自慰に耽った人間とそうでない人間とに人類が二分されるように。私はおそらく「間違って」いる。
さて、ギターである。
小学生の時分は、親父のクラシックギターを弄んで満足していた私であるが、中学に上がった辺りからスティール弦のギター、つまり所謂フォークギターに私は強い興味を抱き始めた。
確か中学一年生の私の誕生日であったと思う。私は親父にフォークギターをねだった。親父は私をお茶の水の楽器屋街に連れて行き、二万円前後のモーリスというメーカーの安いギターを買い与えてくれた。このギター、未だに私は手許に置いている。安物なのだが、非常に弾きやすく、それなりに良い音もするのだ。当時も夢中になって弾いた。そのギター購入と同時に買ってもらった譜面は、「さだまさし全曲集」とか何とかいうさだまさしの譜面集。
♪おしえてください この世に生きとし生けるものの全ての生命に限りがあるのならば
海は死にますか 山は死にますか 風はどうですか 空もそうですか
おしえてください
と歌うようになった。ますます根暗な性格に加速度が増した、と考えて相違ない。
高校生に入って買ったのが、冒頭に挙げたフェンダーのエレクトリックギターだ。エレクトリックギターにも興味が出たのだ。間違いなく私が所有しているギターの中でも最も高価なギターだ。
そこからブルーズに興味が出て、今の私に至るのだが、その経緯は別に書いても面白くないので書かない。
問題は、そのギターを買った私は、苦労してアルバイトをして小遣いを貯めて買ったということ、その事自体に満足してしまった節があり、ギターの練習はろくにしなくなった、という点にある。結局私は二十歳前後でギターを弾くことをやめてしまい、その代わりにピアノを弾くようになった。我が家で高価なギターが眠ったままになっていたのだ。
最近、エレクトリックベースとそのためのアンプを買った。ベースは安物だが、アンプはそれなりに良いものを買った。
そう、私は家に眠ったストラトキャスターを久しぶりにアンプに差して弾いてみたかったのだ。
弦を買って、電池を買ってこよう。今度仕事で都心に出た時にでも。
もちろん、弾けもしないくせに、ヘヴィゲージを買う。つまらないこだわりなのだ。
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