些細な便り
ぼんやりと、川岸で缶チューハイを舐める。
深夜1時。当然、辺りに人気は無く、遠くに見える橋の上を時々往来する車だけが私に他者の存在を認識させるが、現実感は稀薄だ。
Tシャツ一枚で出てきたが、心持ち寒い。まだ「涼しい」と強がりは言えるか。
夕方、久しぶりの友人からメールが届く。長野県に住むその友人は、自らの近況を私に綴ってくれると同時に、私に幾つかの励ましの言葉もかけてくれる。メールを返そうかな、と考えていたら夜更けになってしまったので断念する。何処かで誰かが確かに生きているのだから、それで良いんだと自分を納得させる。
件の友人、彼女とはインドで出会った。曖昧な記憶なのだが、確かニューデリーで知り合った。何回か一緒に食事をする機会があって、私はぼんやりと彼女に好意を抱いた。けれど、それだけだ。彼女はそこからバラナシに向かい、私はアムリトサルに向かった。道は幾重にも分かれていた。多分、六年か七年昔の話だ。以来、直接の面識はない。
旅先で知り合った人と、何処かに帰り着いてからも頻繁に連絡を取り合う事は私はあまりない。けれど何かの折りにこうしてふっと連絡が来たりすると、遠い異国の風景が鮮明に脳裏に甦る。しつこい物売りや怪しい薬売りでごった返すニューデリーのメインバザールの風景を思い出して何だかホッとするのは、ひょっとしたらその些かほろ苦い昔話のせいかも知れない。
その頃、私は今よりも少しだけ未熟で、今よりも少しだけ世間知らずだった。何年か経って、苦笑いや愛想笑いが上達した。随分と前向きになった。色んな事を諦めたお陰だと思う。余り後悔もしなくなった。感受性が鈍磨される事は、私にとっては比較的都合が良かったのだ。
新中川。
頭上を見上げると、暗い空が低く見えた。
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