新中川
ふと思い出したように、と言うよりはまるで何かに誘われるように、新中川へやってきた。レモン酎ハイを買って。夜の10時過ぎ。まだ街は眠っていない。
とても懐かしくなる。私が十年近く前に、ほぼ毎日のように来ていた場所だ。
コンビニの前に屯する若者たちに、いささかの嫌悪感を覚えつつも決して彼らを全面的に否定できないのは、私はかつて彼らのようだったからである。家にいるのも何か窮屈で、外に出たい。ただし金はないからどこかへ行ける訳でもない。コンビニの前で屯するのはいたずらに大きな自尊心のせいで出来ない。仕方がなく、缶ジュースの一本も買って、近所の新中川や少し離れた水元公園へ行って、暗闇の中でうじうじと屯していた。
友人と話していた会話は、まさに他愛もない。
クラスのあの子と最近よく目が合う、ひょっとしたらあの子は俺に気があるんじゃなかろうか、といった童貞全開の誇大妄想。
会った事もない、そして今後一切会う事はないであろう雲の上の芸能人を勝手に格付け。「いや、安室奈美恵は俺の脳内会議では満場一致でナシっていう事になったぞ」や「てめえキョンキョンって呼び捨てにしてんじゃねえよ、キョンキョン様って呼べよ!」など、童貞全開の身の程知らずトーク。
また理想のデートについて検討する事も怠らなかった。
「何?オマエ一回目から映画行くの?センスねえな〜。一回目からいきなり無言の二時間作ってどうすんだよ。上映中はロクな会話出来ねんだぜ?」
「じゃあお前だったら一回目は何に行くんだよ?」
「オレ?オレならそうだなあ…………釣りかな」
まさしく不毛以外の形容詞の見当たらない会話であるが、これはこれで楽しかったのだ。少なくとも私の惨めな青春時代を慰めてはいた。
新中川で独りで酎ハイを飲んでいる。
たまには悪くない。
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