音楽研究
草木も眠る丑三つ時、全く可笑しな時間に目が覚める。普段より随分と早い時間に寝た影響なのはわかっているのだが。林檎のジュースが冷蔵庫にあったので、それを飲む。美味い。最近、果実のジュースがとても好きだ。100%果汁のジュースはどれも大抵美味い。そして私は変に目が冴えてしまう。
音楽に関するメモを少し。
昨日は久しぶりの何も予定のない休日であったので、朝からひたすらにピアノの練習をする。その時に気付いた事。
ジャズという音楽は、基本的には他人の褌で相撲を取る音楽だ。多くの演奏がスタンダードナンバーという既成のフォーマットを借りて、独自性を表現する。私自身はこれはクラシック音楽の形態に、或る意味では類似している、と思う。譜面というフォーマットに縛られているせいで独自性を表現出来ないクラシック音楽奏者などいないのと一緒だ。
となると、その曲に対する理解というのはとても重要な話になってくるのではないか、というのが私の見解だ。以下、曲に対する理解を深める為の私が考える最低限の条件を。少なくとも私のような才能に恵まれていない凡人には、こういった事がとても大事なのだ。才能溢れる方々は、鼻で嘲笑っておいて頂きたい。
また、今回はなるべく精神的な話に入らないように書きたい。表現する精神が、とか、人生経験が音に反映され、とか、そういった事は確実にあるのだが、もう少しシステマティックな、技術的な話を中心に。
まず、当然の事だが譜面の暗譜という事はある。元々ジャズの譜面は単なる目安程度のものなので、覚えるのはさほど苦ではない。基本的なメロディーと基本的なコード、これらを暗譜しておく事は重要である、と私は考えている。演奏中に譜面を目で追わなくて良いという事は、若干の余裕にも繋がりうる。出て来た余裕は、共演者とのコミュニケーションに費やしたり、自らの音を更に深く聴く集中力に費やせば良い。それは、とても大事な事なのだ。
次に、イメージという問題がある。例えば「枯葉」というスタンダードナンバーを言われた時に、頭の中にいくつかの名演(それはあくまで個人的であっても構わない)から導き出されたイメージが浮かんだ方が良い。模倣が創造を生む典型的な例だ。そしてそのイメージは多岐に渡れば渡るほど良い、と私は思っている。オスカー・ピーターソン・トリオによる「枯葉」、ナット・キング・コールの歌う「枯葉」、マイルス・デイヴィスとキャノンボール・アダレイによる「枯葉」、ビル・エヴァンス・トリオによる「枯葉」…それは無数に存在する。いかにそれらが明確に脳裏に浮かぶか、というのは重要な事だ。どれだけたくさんのレコードを聴き込んできたかによって、この点では大きな開きが出る。
以上は今までも意識していたポイントなのだが、今日気付いたのは、歌詞の問題だ。歌詞を知る、また歌詞を覚えるというのはとても大事な事のように、今日、私は感じた。歌を歌わない、楽器だけを演奏する人たちは、意外なほどに歌詞を知らない。でも果たしてそれで良いんだろうか、というのが今日の私の気付きである。
歌詞を知ることにより、フレーズの歌い回しが自然になる。それは当然だ、頭の中で歌詞が流れているのだから。更にもう一つ重要なポイントとしては、英語のアクセント・発音発声によって脳内で歌詞をイメージする事により、日本語的リズムから一度離れる事が出来る。これにより、演奏にこれまで感じる事の少なかった「英語のリズムによるフレージング」というものが生まれる。英語の発声を綺麗な発声に近付けていけば、流麗な都会的ジャズになる。吃音を激しくすれば、田舎臭いブルーズの発音になる。やはり私は後者により強い興味を持つ。こここ、これからはわわわ、私はどどど、どもっていこうとお、お、お、お、お、おもいます。あまり秘密を明かすのも癪だが、要するにこのどもっている部分が「タメ」に繋がるのだ。もうこれ以上は企業秘密にしておこう。危ない危ない。
最後にもう一つ、その曲にまつわる発生と流布の歴史を知ることが大事だ、と私は考えている。その曲が生まれた背景には何があったのか。作者の意図は何だったのか。その曲は人々にとってどのような意味を持つ曲として今日に残存しているのか。特に最後の部分については、「知らなかった」ではすまされない事も多々ある。例えば「アメイジング・グレイス」という曲の持つ意味、これを知らないと、場所によっては大変な事になる。「知らなかった」ではすまないのだ。それは「知るべき事」であるのだ。また、それを知ることによって、曲に対する理解(或いは想像力と言った方が正しいのかも知れない)は更に広がる。
受け手にまわるならば、そこまで深く考えずとも良いのかも知れないが(つまり「音を楽しむ」のが「音楽」なのだから)、作り手にまわろうと思えば、そういった労力を惜しんではならない、と私は考えている。労力、というのは何か可笑しいか。私は今日改めて気付いた。こういった「曲の研究」がかなり好きである。実際それによって演奏は変わる。面白いものだ。
ちなみに今回の研究対象は「Bourbon street parade」と「When you're smiling」。暫くは脳内鼻歌ヒットパレードの上位に君臨し続ける事でしょう。
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