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2006年3月17日 (金)

三十八歳の目標

私は凡人である。凡人である人ならば私の意見に頷ける人も多いかも知れないが、誰にでも「影響を受けた人物」という人が一人や二人はいるだろう。私にも何人かいる。今日はその内の一人、古賀稔彦という人について書きたい。

e's styleという所でのライブを終えて帰って来てTVをつけたら、バラエティ番組に古賀稔彦さんが出ていた。知らない人の為に彼の事を簡単に説明しておくと、彼は柔道家である。バルセロナオリンピックでは金メダルを獲得しているし、世界選手権での優勝も数度に渡ってある。実績は十二分にある。しかし、月並みな表現になるが、彼はやはり何と言っても記録以上に記憶に残る選手であった。芸術品とも言える背負い投げを操る彼の試合は、いつも見ている私を心底からワクワクとさせた。彼の背負い投げによって投げられた相手は、完璧とも言える弧を描きながら畳に落ちる。「わかっているのに投げられてしまう背負い投げ」と、彼の背負い投げは評される事はあったが、それも決して誇張表現ではない。彼は魔法使いの一人であったのだ。

私も十年以上柔道をやっていた。中学生の頃は身の程もわきまえずオリンピックに行きたいなどと本気で思っていた。当時の私にとって古賀稔彦という柔道家は神様に近い存在だった。参考までに言うと、当時の柔道少年達は古賀派と吉田派(吉田秀彦氏。最近は総合格闘技の世界などで活躍している)に二分されていた。ちなみに小川直也氏は当時は人気がなかった。私はもちろん古賀派であった。彼の試合のビデオを何回も何回も見ながら、どうしたら彼のような背負い投げが出来るようになるか、そればかりを考えていた。特に繰り返し何度も見たのは、バルセロナ五輪の準決勝、ドットとかいう名前の選手を背負い投げで一閃した試合だ。あまりに何度も見たので、未だに脳裏にはっきりと焼き付いている。いやあ、最高の背負い投げだったなぁ。

そんな彼をたまにふとTVで見かけると、何とも懐かしい気持ちになっていた。ああ、相変わらずの柔道バカだなあ、でも最近少しずつTV慣れしてるよなあ、そんなことを思いながら。

今日のバラエティ番組も、芸能人に背負い投げをかけたり、芸能人が「痛い、痛い!いやぁ、ホンマにすごいですね〜」なんて言いながら和気藹々と進められていた。そんな中、古賀稔彦さんの口から発せられた言葉は信じがたい言葉であった。

「現役に復帰するつもりで今、身体を作り直しています。北京五輪を目標にやります。もう一度勝負したくなりました。」

柔道選手の選手寿命は、他の競技に比べても決して長くはない。三十歳を超えれば、もう引退を考える時期だ。実際、古賀稔彦さんも三十代前半で引退した。現在、古賀稔彦氏、三十八歳だそうだ。いくら「平成の三四郎」と言えども、その目標はあまりに荒唐無稽だ。

にも関わらず、彼の目は本気であった(この場合、「マジ」と読んで頂きたい)。本気で世界一の「最強」を目指す男の目であった。こいつはやはり凄い、最高だ、私はそう思わざるをえなかった。この際、「チャレンジする事に意義がある」などという見方はしたくない。彼が日本代表となり、そして世界「最強」となる、その時を刮目して見届けたい。

ライブから帰って来ていささか疲れていたが、あまりの衝撃ゆえに見終わってすぐにブログに書こうと思い立った。

古賀稔彦。十年以上前に私の心を強く揺さぶった男は、再びその時以上に私を揺さぶった。背負い投げを、もう一度。私も「本気で」期待する。

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コメント

すごいね。

ほかの誰でもなく、古賀だからこそ、その宣言は重い。例えば、K-1の角田さんが言う「現役」とは違う。古賀が言うからには、本当に「本気」なのでしょう。

すごい。

投稿: torii | 2006年3月17日 (金) 23時13分

toriiさんへ

角田さんの事は、この古賀の現役宣言を見ている時に僕も頭をよぎりました。彼の勇気をバカにするつもりは毛頭ないし、評価に値する行動ではあるけれども、トップファイターに混じって現役復帰、角田さんの言う「現役」はそうではなかったしなぁ。古賀さんが現役引退を決めた時に「世界一を目指すのでなければ現役を続ける意味がないので引退します」と言った事も並んで思い出して、あ、やっぱり世界一を再び目指すんだ、こいつバカだなあ、でも最高だなあ、そう思いました。うん、すごい。

投稿: 福島剛 | 2006年3月24日 (金) 03時04分

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